iBet uBet web content aggregator. Adding the entire web to your favor.
iBet uBet web content aggregator. Adding the entire web to your favor.



Link to original content: https://zeroichi.media/with/16671
【大阪大学・東京医科歯科大学教授 武部貴則が語る再生医療の最前線 その2】 - ZEROICHI
WITH

【大阪大学・東京医科歯科大学教授 武部貴則が語る再生医療の最前線 その2】

再生医療研究の分野で成果を上げている大阪大学大学院教授の武部貴則。
堀江氏は再生医療で注目されるリプログラミングについて、武部氏に、最新動向を聞いた。

その1 エネルギー代謝を調整することで、老化予防の可能性が広がる 
その2 きっかけは父の肺の不調。消化管からのガス交換に注目し「EVA法」を発表 ←今回はここ
その3 酸素濃度を高める新たなルートに着目。意識障害や慢性疾患予防にも期待

きっかけは父の肺の不調。消化管からのガス交換に注目「EVA法」を発表

武部 アスピリンを飲んでいる先生もおられますね。アスピリンは炎症を抑える薬ですが、持続的に炎症をちょっとだけ抑えることで、全身の発がんが制御されるみたいな理由で飲んでいるようです。

堀江 アスピリンはどれくらい飲むんですか?

武部 何mgかはわかりませんが、低用量だと思います。

堀江 あと、色素を研究している先生が「色素を飲め」って言ってました。その人は抗酸化力が強い「アスタキサンチン」を飲んでるみたいです。で、「アスタキサンチンのサプリを飲んで体の中に吸収されるの?」みたいな疑問が出てくるんですけど、鮭って体が赤いでしょ。

武部 赤いですね。

堀江 鮭って本来は白身の魚なんです。なんで赤いかというとアスタキサンチンを持っているプランクトンを食べているエビやカニなどの甲殻類を鮭が食べているからなんです。だから、「ああ、ちゃんと腸から吸収されるんだ」って納得しました。

武部 納得しますね(笑)。消化管も面白いですよね。僕らも消化管からのガス交換を研究しています。

堀江 消化管からのガス交換? どうして、そんな研究を始めることになったんですか?

武部 僕の父は、肺の調子が悪いんですよ。それで肺のことを勉強しようと思って、図鑑で生物の呼吸を調べていたんです。

堀江 図鑑ですか?

武部 はい。すると魚はエラ呼吸だし、カエルは肺呼吸だけでなく皮膚呼吸もできる。さらに、カクレガメは生殖器で呼吸するなど、いろいろな呼吸方法があることを知りました。その中で「一番利用できそうだな」と思ったのが、消化管の「腸呼吸」なんです。ドジョウは水中ではエラ呼吸ですが、泥の中などの低酸素環境だと腸から酸素を取り込んでいるんですよ。

堀江 そうなんですか。

武部 それで、試しにマウスのお尻から酸素を入れてみたんです。すると、5分くらいで死んでしまうような低酸素状態でも、10分から15分くらい生存できることがわかりました。それで「これは可能性があるぞ」と思ったんです。

堀江 すごいですね。

武部 ドジョウなどの腸呼吸する生物は、腸呼吸のときに消化管が一時的に薄くなったり、腸の吸収機能を抑えたりすることで酸素を取り込むというメカニズムが示唆されています。それで、もっと消化管を薄くして、吸収する細胞を取り除けば効率が上がるはずだと思って、腸の上皮を取って、そこから酸素ガスを入れたんです。そうしたら、他から酸素を取り込まなくてもお尻からの酸素だけで生存できることがわかりました。

堀江 へー。

武部 最終的にはもっと健康的な方法を考えないといけないんですけどね。例えば、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』には、コックピットの中に液体が溢れてきて、その液体の中で呼吸するシーンがありますよね。

堀江 ありますね。

武部 あれは「液体呼吸」と呼ばれる現実にあった実験が元になっていると思います。その液体呼吸をいろいろと調べていくと、人工血液につながっていったり、戦時中に大量出血した人に腸から酸素が大量に含まれた液体を入れていたというような話もあったんです。それで、今、豚などで腸呼吸の研究もしています。

堀江 豚でやっているんですか?

武部 はい。低酸素環境において、酸素を溶け込ませた液体を投与している間は酸素濃度がバーッと上がって、投与をやめて排泄するとバーッと下がるんです。そして、CO2(二酸化炭素)は投与中は下がっていて、排泄すると上がる。つまり、CO2は液体に吸着されているんです。ガス交換が起きているような状態です。

堀江 それは、どうやって投与するんですか?

武部 浣腸です。最新の研究では口からでも可能なことがわかってきましたが、医療現場だったらお尻のほうがいいのかなと思っています。

堀江 まあ、そうでしょうね。

武部 この研究を「Enteral(腸) Ventilation(呼吸)」という意味で「EVA法」と名づけて昨年(2022年)発表したんです。そうしたら日本では腸呼吸の可能性というよりも、「エヴァンゲリオンの世界だ」みたいな反響が多かったんです。でも、海外では多くの人に受け入れてもらえたみたいで、たくさんの人から連絡をいただきました。その中で興味深かったのが、タバコ浣腸の研究をしているという歴史学者さんです。

堀江 タバコ浣腸?

武部 タバコをふかしてお尻に吹きかけるという医学が300年くらい前にあって、それで1000人くらいの人が救われているという歴史があるというんです。

堀江 救われるってどういうことですか?

武部 溺死しそうになっている人のお尻にタバコの煙を吹きかけると、生き返ったそうなんです。

堀江 ニコチンが作用しているのかなあ。

武部 彼いわく、酸素などのいろいろなガス成分が腸を介して、さまざまな効果を生み出すことはあり得るから、ぜひ話を聞かせてくれと。

堀江 面白いなあ。

その3に続く

東京医科歯科大学大学院教授、大阪大学大学院教授                       武部貴則(Takanori Takebe)
1986年生まれ。神奈川県出身。2011年、横浜市立大学医学部卒業。専門は再生医学。2013年に世界で初めてiPS細胞を使ってミニ肝臓を作ることに成功。2017年、横浜市立大学医学部教授。2018年、東京医科歯科大学教授。2019年、東京医科歯科大学大学院教授。2023年、大阪大学大学院教授。