京都府福知山市の秋の風物詩で市最大のスポーツイベントでもある「福知山マラソン」が正念場を迎えている。新型コロナウイルス禍の収束を機にランニングブームが下火になる中、エントリー数がピーク時の約3割に激減。市などでつくる実行委員会は11月23日開催の今回大会から、街のシンボル・福知山城を見ながら走れるようにコースを変更したり、参加料を値下げしたりするなど、あの手この手で魅力アップに躍起になっている。
過去最少を更新
福知山マラソンは平成3年に京都府内初のフルマラソンとしてスタートし、今回で32回目を迎える歴史ある大会だ。全国からランナーが集まり、多くの市民ボランティアが参加する一大イベントとして親しまれている。
市によると、28年に1万人の定員が埋まったのをピークに、29年からは毎年約9千人がエントリーしていた。ところがコロナ禍での延期期間を挟み、3年ぶりの開催となった令和4年は一気に3553人にまで落ち込んだ。翌5年には定員を6千人に絞り募集期間も延長したものの、減少に歯止めがかからず、3420人と過去最少を更新した。
参加料の大幅減で開催費用が賄えず、4、5年は2年連続で収支が赤字に。市がそれぞれ317万円、823万円の不足分を補塡(ほてん)するなど市の財政にもしわ寄せが及んだ。
参加料値上げも影響か
平成19年に始まった東京マラソンをきっかけにランニングブームが広まり、全国で開かれるマラソン大会には市民ランナーがこぞって参加した。
だが、コロナ禍の収束に伴って状況は一変。福知山マラソンに限らず、地方都市で開催される市民マラソンはコロナ禍で行われていたオンライン大会の普及も背景に定員割れが相次ぐなど、苦境に立たされている。
京都府内では「京都木津川マラソン大会」が、コロナ禍で大会を支える企業が倒産・閉鎖し、資材調達や警備員の人材確保が難しくなったことなどを理由に、昨年の40回大会を最後に終了した。
「コロナ禍に伴うランナーの準備不足や参加料の高騰、直前に開かれる都市型マラソンの神戸マラソンに参加者が流れていることが背景にある」
福知山市の担当者は参加者減少の理由をこう分析する。とりわけ、人件費や物価の高騰などに伴い、コロナ禍前の令和元年に8千円だった参加料が4年に1万円、5年には1万2千円と、1・5倍に値上がりしたことも影響したとみている。
実行委は今年2月、ランニング愛好家らも参加する「福知山マラソン検討会議」を立ち上げ、参加者増に向けた魅力向上策を検討。同会議の意見も踏まえ、今年の大会では昨年の大会に30分繰り上げた制限時間を6時間に戻し、参加料も1万1千円に値下げ。福知山市民向けの先行エントリー枠(500人)を設けて参加料も千円安い1万円にしたり、10人1チームでエントリーすると参加料を1人につき千円割引したりすることにした。
さらに、福知山城のそばまで走れるようにコースを一部変更。参加者の裾野を広げようと、10キロのチャレンジランと、フルマラソンを2人で継走するペアリレーマラソンを追加し、ニックネームゼッケンも採用。海外から参加するランナー向けの英語サイトの初導入や初心者向けランニング講座の開講など、なりふり構わぬ取り組みで参加者の確保を図っている。
千原さんもエール
地元出身のお笑い芸人で「福知山ドッコイセ大使」を務める千原ジュニアさんもエールを送る。
実行委は完走者に贈るフィニッシャーTシャツのデザインを千原さんに依頼。千原さんは「大会が盛り上がれば」と快諾し、兄のせいじさんが福知山城を背景に快走する様子をコミカルに描いたデザインを考案、「いつか兄弟2人で参加できたら」との思いを込めた。
ランナーの宿泊や飲食などを通じた経済効果への期待は大きいが、今回も参加者数が低迷すれば大会の存続が危ぶまれる事態になりかねない。
「コロナ禍後も市民ランナーの総数自体は変わっていないと聞く。いろいろとネタを仕込んで、何とか定員割れを回避したい」と市の担当者。
ただ、そんな意気込みとは裏腹に、8月21日現在のエントリーは定員6千人の半分程度の約3200人にとどまり、厳しい上り坂が続く。エントリーの締め切りは9月30日。ラストスパートをかける。(橋本亮)