「私なぁ…最近、膝と腰が痛くて…(中略)そろそろ杖を買おうと思っているのよ〜」
先日、僕の母がこう呟(つぶや)いた。映画「北の桜守り」の主演女優・吉永小百合さん…ほどではないにしろ、母は十分若くて美しいと僕は思っているのだが、本人はここ数年で老いを自覚し始めている様子。
よし、プレゼントしよう!。早速、京都市中京区に本店を構える「つえ屋」のホームページを開いた。
杖(つえ)を持っていると思われたくない方用に、傘に見えるカムフラージュ杖、暗闇を明るく照らすLEDライト内蔵の杖、蒔絵(まきえ)を施した高級杖…。持ち手の素材も金、銀、漆、鯨骨、カーボンなど、さまざまなものから選ぶことができ、その数なんと約9千種類!。
杖を選ぶために杖が必要になる豊富さだ。価格は5千円から260万円と幅広く、売れ筋は2〜3万円。最近発売された新商品は、火葬時の副葬品として認められるよう、金属を使わず木だけで作った杖で、他界した後、愛用の杖を棺に納めたい…というお年寄りらの要望に応えて開発されたそうだ。
僕は母にこれを提案した。
僕:「棺に入れて、天国へ持っていける杖があるらしいで!」
母:「縁起の悪いこと言わんと いて!私はまだ死なへんで」。
怒らせてしまったのは申し訳ないが、まだまだ元気そうで安心した。
数日後、母から連絡があった。折り畳める携帯用の杖を自ら購入したようだ。息子の不穏な動きに感づいたか、やけに決断が早い。
ちなみに余談だが、30代の頃、僕はオシャレアイテムとして紳士用の杖を買うという暴挙に出かかったことがある。
また、イギリスのジェントルマンは、杖を持つことであえて片手を塞いでも何不自由なく生活できる…と健康をアピールしたらしい。
生活水準の高さや権力を誇示する意味合いもあった。剣を仕込み、護身用として使用した例も…。杖を持つ理由はさまざまだ。
店のご主人曰く「杖は体だけでなく、心も支えるもの」らしい。僕が母の「杖」になれる日は、まだまだ先のようだ。 (α-STATION DJ、マツモトアキノリ)
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【プロフィル】マツモトアキノリ 京都市出身。血液型O型。いて座。趣味はサッカー観戦(イングランド)、読書(みうらじゅん)、一人パブ巡り。特技は長距離走。4月から「Hello KYOTO Radio」(第2・4水曜日 午後8時30分〜9時00分 http://fm-kyoto.jp/blog/hello_kyoto_radio/ )を担当。
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京都のFMラジオ局、α-STATION( http://fm-kyoto.jp/ )のDJのみなさんが隔週で京都のおすすめスポット、グルメ、音楽情報など、楽しい京都の話題や最新トレンドをお届けします。産経新聞京都版でも随時掲載中です。