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銀座に輝くリノベーションビル ダークグレーのメタルボックスに浮かぶ白いリンゴ──。東京・銀座中央通りに新しい顔が生まれた。 「Macintosh」シリーズで知られる米国アップルコンピュータ社の直営店舗「アップルストア銀座」である。 斬新なデザインは,同社のスタイリッシュなパソコンのイメージそのものだが,じつはビル自体は新築ではない。 既存ビルを有効活用し,改修によって付加価値を更新する,いわゆるリノベーション建築である。 その誕生の舞台裏を紹介しよう。 |
工事概要 アップルストア銀座(サヱグサ本館ビルリニューアル) 場所:東京都中央区 発注者:アップルコンピュータ 基本設計:Bohlin Cywinski Jackson事務所 実施設計:当社建築設計本部 規模:耐震補強,内装・外装改修,設備更新ほか延べ3,939m2 2003年11月竣工(東京支店施工) |
アップルストア銀座のオープンは昨年11月30日。開店直前には約5,000人の“Macファン”が詰めかけ,銀座3丁目の店舗前から並んだ長蛇の列は,京橋を越えて折り返したという。 5フロアで構成される店内は,最新機種がそろうショップエリアをはじめ,インターネットカフェやシアターホールなどを備え,洗練されたインテリアで来店者を迎える。ジニアス・バー(GENIUS BAR)では,エキスパートがユーザーの高度な質問に答えてくれる。こうした直営店舗は全米各地で展開されており,その店舗デザインにはスタイリッシュな商品の個性が貫かれている。 今回の銀座店は,海外初の出店となる。中央通りと松屋通りに面したファサードは,ステンレスの壁面に白いリンゴがひとつずつ浮かび,銀座の目抜き通りに存在感を示す。 |
そして,リンゴから上へと視線を移すと,一転してガラスの壁面となる。ビルの近くから見上げると光の反射で分かりにくいが,ガラスの奥にはコンクリートの柱と梁が見える。これが,既存ビルのフレームであり,リノベーションならではのデザインのコントラストを織りなしている。 ビルの元々の名前は「サヱグサ本館ビル」。茶褐色のタイルが貼られた老舗のビルとして親しまれ,衣替えする直前は通りに銀行が面していた。地上8階,地下2階建てで,1967年に竣工した。 じつは今回のリノベーション工事を正確にいえば,アップルストアの入居する地下1階から5階までと,全体のファサードの改修となる。6階以上のテナントは工事中も通常と変わらず営業を継続する「居ながら工事」だ。入居者の安全確保とともに,6ヵ月半という異例の短工期を実現した。 サヱグサ本館ビルを運営し,銀座の老舗子供服メーカー社長である三枝進さんは,リノベーションの狙いに「銀座の活性化」を挙げる。「名店や老舗デパート,そして海外有名ブランドショップといった顔触れに,アップルコンピュータという“異彩”を加えることで,銀座の集客力の幅をさらに広げたい。そのランドマークになってくれるだろう」。 “銀座通り”とも呼ばれる中央通りは,繁栄する日本の都市景観のシンボルでありつづけてきた。アップルコンピュータはここを「世界有数のショッピングストリート」と位置づけ,海外初の出店を決めたと発表している。そして現在,中央通りを行き交う人々の年齢層は着実に広がっているようにみえる。街の付加価値を更新しつづけるストリートだからこそ,アップルストアの存在が銀座の新たな魅力となるのであり,リノベーション建築というランドマークがふさわしいのだ。 |