YouTubeでの総再生回数が1億回超えを果たすなど、アジアのみならず世界中を魅了した中国ブロマンス時代劇「山河令」がCS放送「女性チャンネル♪LaLa TV」で7月12日より放送。人気作家Priestの耽美小説を映像化した本作では、朝廷の暗殺組織を抜けるため、自らの体に釘を刺し、余命3年の自由を得た周子舒(ジョウ・ズーシュー)が、謎の男・温客行(ウェン・コーシン)と出会い、武庫の鍵・琉璃甲をめぐる壮大な争いに巻き込まれていく。
#山開き(ドラマを観始めること)、#登頂(ドラマ完走)、#遭難中(ドラマに“沼る”)など、山にまつわるハッシュタグもでき、一躍ブームになった「山河令」。本特集では多くの視聴者が“遭難”してしまう理由を3つのポイントから解説する。また作品の世界をより深く知ってもらうためのQ&A、用語集もお届け。さらに「山河令」登頂済みで「昭和元禄落語心中」などで知られるマンガ家・雲田はるこによるイラストコラムも近日公開予定。お楽しみに!
文 / 小酒真由子(コラム)
「山河令」の魅力を紐解く3つのポイント
苛烈な運命に翻弄される主人公2人が深めていく魂の絆
「山河令」の舞台は、各門派の秘伝の奥義書が集められ、手に入れた者は一夜で無敵になれると言われる武庫の鍵「琉璃甲」を巡る戦いが繰り広げられている世界。暗殺集団のリーダーとして心ならずも多くの人を殺めたことを後悔しながら余命わずかな人生を過ごす周子舒(ジョウ・ズーシュー)と、痛ましい悲劇を体験して復讐だけを糧に生きる温客行(ウェン・コーシン)がめぐり逢い、琉璃甲の争奪戦に巻き込まれていくことになる。最初はどちらも相手に正体を隠していた2人が、疑心暗鬼のぎこちない関係から以心伝心の信頼関係を築いていくまでは、スリルありサプライズありの胸が高鳴る展開。“知己”と呼び合う尊い絆で結ばれた2人が過去を清算する正義の戦いに臨み、互いのために命さえ差し出す覚悟で運命に立ち向かう姿に熱い涙が止まらなくなる。
美麗かつ鮮やかなアクションと耽美な世界観
周子舒も温客行も武術の腕は一流という設定で、それぞれが流れるような美しいアクションを披露。周子舒はよくしなる柔らかい剣を武器にして素早い動きで敵を翻弄し、温客行は優雅に扇子を飛ばして武器にし縦横無尽に宙を舞う。そんなワイヤーアクションを駆使したスピード感のある動きを、ハイスピード撮影のスローモーション映像を交えて演出しているシーンはほれぼれするかっこよさで臨場感たっぷり。また、⼭荘、客桟、楼閣などの各セットは中国の伝統美を意識して小道具まで入念に作り上げられた。主⼈公2⼈の衣装が心情や状況の変化に応じて色・デザインが変わっていくといったビジュアル面での細やかな気配りや、漢詩をちりばめたセリフの美しさにも感嘆させられる。
主人公を取り巻く魅力的なキャラクターと様々な愛のかたち
本作は脇役も個性際立つキャラクターたちが次々と登場し、様々な人間模様がドラマティックなストーリーをより深い感動へと導いていく。例えば、武術も教養も今一つだが純粋な心を持つ曹蔚寧(ツァオ・ウェイニン)は、言動は粗暴でも心の優しい顧湘(グー・シアン)と爽やかな愛を育み、弱虫だった張成嶺(ジャン・チョンリン)は周⼦舒に弟子入りして成長を遂げ、彼と師弟愛を深めていく。一方で、恋人の裏切りから“鬼”の身に堕ちた女性たちの終わらない葛藤、冷酷な殺し屋でありながら義父には狂おしいほど愛を求める蝎王(さそりおう)のジレンマなど、愛に苦しむキャラクターたちの赤裸々な想いも描かれ観る者の心を揺さぶる。そして、これらの喜怒哀楽に満ちたそれぞれの愛のエピソードも最後まで目の離せない展開が待ち受けている。
「山河令」を楽しむためのQ&A
Q. 武侠ドラマってどんなジャンル?
中華圏では古くから武術や恋愛をテーマにヒーローたちの冒険を綴る武侠小説が大人気ジャンルで、近年は現代小説が原作の新しい武侠ドラマも次々と生まれ、Priestの人気小説「天涯客」を原作とした「山河令」もその一つ。
武侠ドラマといえば、“江湖”と呼ばれる法や秩序よりも仁義を重んじる武芸者たちがしのぎを削る任侠の世界が舞台であること、彼らが身軽に空を飛び華麗な剣術を披露することが特徴。武芸者たちが空を飛べるのは生まれ持った超能力ではなく誰もが操ることができる“気”のパワーであり、厳しい修業によって奇想天外な武術の技を伝承していく設定となっているのが、武侠アクションの醍醐味。
Q. 武侠アクションはどうやって撮影している?
武侠ドラマに欠かせないワイヤーアクションは、俳優にワイヤーを装着して吊り上げ、それを引いたり緩めたりすることで空を飛び華麗に宙を舞う武侠アクションを実現する。特にこれを発展させた1980年代の香港映画は、ワイヤーを巧妙に隠しながらダイナミックな美しいアクションを見せる演出だったが、その後、CGの発達によりデジタル合成でワイヤーを後から消せるようになると、「マトリックス」「チャーリーズ・エンジェル」といったハリウッド映画にもこの技術が取り入れられるようになった。近年は日本映画でも「るろうに剣心」で使われるなど一般的なものに。なお、「山河令」は香港出身の監督が手がけているだけあって、激しい対戦シーンでも回転や着地のタイミングがぴったりと合った高度なワイヤーアクションを堪能することができる。
Q. 中国語で“知己”の意味は?
中国語で“知己”(=己を知る)とは自分の心を理解してくれるかけがえのない友のことで、心の深いところで通じ合うソウルメイトを指す。特に武侠ドラマにおいては男同士が戦いの中で絆を強めていき生死を共にする誓いを立てるエピソードが多く、「山河令」の周子舒と温客行の関係も“知己”と呼ぶにふさわしい。こうした西洋では“ブロマンス”とも呼ばれる男同士の熱い関係を描くドラマは、中国で「鎮魂」「陳情令」が大ヒットして以来トレンドのジャンルとなり「山河令」の大ブームに繋がった。
なお、同性愛の表現に対する規制がある中国では、人気のBL(ボーイズラブ)小説をドラマ化するにあたってテーマをブロマンスに改変するのが一般的な手法となったが、昨年からの取り締まり強化によりこのジャンルに対する検閲も厳しくなり、制作中の多くの作品がお蔵入りするのではないかと懸念されている。
Q. “鬼”って中国ではどんな存在?
中国語で“鬼”は人間が死んだ後の魂を指し、本来は“幽霊”の意味。しかし、中国ドラマでは幽霊など迷信に基づく概念に関して検閲が入るという事情もあり、本作で登場する悪鬼たちは生きた存在という設定で描かれている。例えば、白無常・黒無常は悪い魂を地獄へ連行するとされている鬼で、道教における地獄の神様としても有名。
Q. 漢詩をちりばめたセリフって?
「山河令」のセリフには多くの漢詩が登場し、その出典や意味を知るとより深くセリフを味わうことができる。例えば第2話で、小舟に乗って去る周子舒を見送る温客行が「ただ心安らかに渡れ 我自ら汝を迎えん」と句を詠む。これは恋歌「桃葉歌三首」からの引用で、愛する人が河を渡るのを見送り必ずまた迎えに来ると誓う言葉。出会ったばかりなのに周子舒に対して特別な感情を示す温客行のこのセリフは、のちの展開に繋がる伏線となっている。
「山河令」用語集
- 琉璃甲(るりこう)
各門派から盗まれた秘術書が収められていると言われる天下一の武庫を開くのに必要な円形の鍵。
- 五湖盟(ごこめい)
江湖の正義を守る5つの派閥。岳陽派、太湖派、丹陽派、鏡湖派、⼤孤⼭派は5つに分けられた琉璃甲を1つずつ所持する。
- 四季山荘(しきさんそう)
周子舒が武術を鍛錬し荘主を継いだ門派。四季を通じて花が美しい山荘を本拠地とし、天下の情報に通じていることで名を馳せた。
- 流雲九宮歩(りゅううんきゅうぐうほ)
四季山荘が継承する独自の武術。滑らかな足さばきが特徴。
- 天窗(てんそう)
周⼦舒が四季山荘の弟子たちを伴い晋王の下で創設した特務機関。周⼦舒が去った後も天下を手にする野望を抱く晋王の命に従う暗殺組織として動く。
- 七竅三秋釘(しちきょうさんしゅうてい)
天窗を抜ける場合に必ず受けなければいけない極刑。体に7本の釘を打つことで武術の力が奪われ五感を失い3年で死に至る。なお、周子舒は3ヵ月に1本ずつ釘を打つことで、余命3年でも五感をすぐに失うことなく、武力も半分残すことができた。
- ⻤⾕(きこく)
五湖盟と敵対する悪鬼たちの派閥。⻘崖⼭を本拠地とし⾕主の下で十大悪鬼が悪名を轟かせている。
- 毒蝎(どくさそり)
天窗の好敵手である暗殺組織。毒蝎は蝎王が率いており、彼の下で四大刺客が暗躍している。
マンガ家・雲田はるこによるイラストコラム
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