日本のスパコン「富岳」、8年半ぶり世界一奪還
スーパーコンピューターの計算速度を競う最新の世界ランキングが22日公表され、理化学研究所と富士通が開発した「富岳(ふがく)」が首位を獲得した。世界一は日本として8年半ぶりで、高速コンピューター開発を主導する米国と中国の2強体制に風穴を開けた。デジタル社会が到来し、高速計算機の進化は新しい薬や素材の探索、人工知能(AI)の活用などに革新をもたらす。富岳で新たに手にした計算力を企業や大学が優れた成果につなげていけるかが問われる。
世界ランキングは専門家による国際会議で、毎年6月と11月に公表される。22日の最新版で富岳は1秒間に41.5京(京は1兆の1万倍)回の計算性能を示し、2位の米「サミット」(同14.8京回)に大差をつけて首位に立った。3位は米国、4位と5位は中国のスパコンだった。
スパコンは半導体の進化とともに性能を高めてきた。富岳は、富士通が設計・開発した高性能のCPU(中央演算処理装置)を約15万個そろえた。効率よく通信するネットワークで結んで最適に制御。大量の計算を瞬時にできるようにした。
各国が国を挙げてスパコンを開発するのは、現代社会に欠かせない研究インフラだからだ。新薬の開発は一般に、膨大な数の物質から病原体に効く候補を探す。
4月に始まった富岳を活用した新型コロナウイルス感染症対策では、高度な計算により、約2千種の既存薬から治療薬候補を選ぶ研究が進む。
富岳では、2011年に計算速度で世界一になった国産スパコン「京(けい)」が1年かかるほどの実験を数日でこなせる。1週間で数万個の物質を試せる。
防災への応用でも、数十平方キロメートルの都市を対象に、地震と津波の複合災害が起きた際の避難経路などを予測できる。
官民合わせて約1300億円を投じた富岳は、応用をにらんだシミュレーションを高速でこなし、そこで生まれるデータはイノベーションの鍵になる。21年から始まる本格運用では、日本の研究開発力や産業競争力の強化をもくろむ。
ただ、日本の首位奪還は、かつてない計算速度を目指す新たな国際競争の幕開けでもある。
スパコンは核実験のシミュレーションなどにも使われ、国の科学技術力や安全保障に影響を及ぼす。先端技術を巡って覇権争いを演じる米中は1~2年以内に毎秒100京回の計算をこなす次世代のスパコンを投入してくる見通しだ。今回の首位を日本が獲得したのは、スパコンが世代交代の時期を迎えるなかで、米中より早く次世代機を投入できた面もある。
資金力で劣る日本が米中と同じ土俵で闘い続けるのは難しい。世界最速の称号は、むしろ富岳を活用してどう成果を生み出すかといった課題を日本に突きつける。
世界では次世代の高速計算機である量子コンピューターの開発も進む。デジタル技術が社会を変えるなか、日本として高速コンピューターの技術をどう開発し、活用していくか、中長期の戦略を描くことも必要になる。(AI量子エディター 生川暁、三隅勇気)