アニメ監督、演出家・長井龍雪、脚本家・岡田麿里、キャラクターデザイナー、アニメーター・田中将賀の3人からなる、アニメ制作ユニット「超平和バスターズ」。
『空の青さを知る人よ』は、2011年に放送されたTVアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(以下、『あの花』)、15年に公開された劇場版アニメ『心が叫びたがっているんだ。』(以下、『ここさけ』)に続く、超平和バスターズによる三部作の最終作と位置づけられたオリジナル作品です。
『あの花』はTVアニメ放送後、劇場版アニメや実写ドラマも制作される話題作となりましたし、『ここさけ』も興行収入10億を超すヒット作。原作がない、TVアニメの続編や総集編といったステップを踏まないオリジナルアニメ作品が興行収入10億を突破するのは、ごくまれなケースです(『あの花』も10億を突破しています)。
某新海誠監督のせいで感覚がマヒしているアニメファンも多いかもしれませんが、超平和バスターズは、アニメ業界屈指のヒットメーカーなのです。そんなヒットメーカーが放つ新作『空の青さを知る人よ』とは、どんな作品なのか。感想を交えながら、見どころを解説してみます。
■恋愛要素よりも姉妹愛に萌える!
受験勉強もせず、ベースの練習ばかりしている17歳の相生あおいと、その姉・あかね(31歳)。姉妹は事故で両親を失っており、あかねは高校卒業時に上京を断念し、地元市役所に就職し、あおいの面倒を見てきた。恋愛もせず、家事に励む姉に対して、妹は負い目を案じていた。
そんなある日、市が音楽イベントを主催することに。すると、招かれた演歌歌手のバックミュージシャンとして、あかねの高校生時代の恋人だった金室慎之介の姿が。あかねには、一緒に上京しようという慎之助と誘いを断っていた過去があった。
揺れるあおい。すると、ベースの練習場である小さなお堂へ、高校3年生の姿、記憶を持ったままのしんの(慎之助の当時のあだ名)が姿を現す。お堂から出られないしんの、あおい、あかね、慎之助の奇妙な四角関係が始まるのだった……。
というのが、『空の青さを知る人よ』のあらすじです。ちびっ子だった頃、お姉さんの彼氏に抱いていたほのかな好意が発展していくあおい、一方でしんのは普通にあかねのことが好きなまま。
そして、13年という時間の隔たりがあって、距離感をはかりかねているあかねと慎之介……歯がゆく、もどかしい距離感のストーリーが紡がれていきます。報われる可能性がほとんどないと自覚したまま、「2度目の初恋」にドキドキするあおいちゃんはかわいいし、何とも切ないです。
また少年少女の恋愛に加えて、それぞれ抱えるものがあり、異なる人生を歩む大人の恋愛要素も描く2段構えも、うまく対比構造になっていて、巧妙だなと思いました。
しかし、良かったなと思ったのは、あおいとあかねの姉妹のストーリー。負い目から上京し、姉から距離をとろうとするあおい、あかねを大事に思い続けるあかね。お互いが想いあいながら、微妙にずれてしまう姉妹の関係がいいなぁと思いました。
『空の青さを知る人よ』公式サイトに掲載されているインタビューでは、長井監督が「姉妹の物語を動かすための装置みたいなポジションだったんです」と語っています。観賞後だと、これはすごく納得できるコメント。
恋愛要素も、あかねとあおいの物語を語るための構成素材の一つなんですね。ついでに言うとあおいちゃんは主人公ではあってもヒロインではなく、ヒロインはあかね(31歳)と捉えて観賞すると、しっくりくると思います。あかねが本当にいいキャラでした。
なお、岡田麿里さん脚本ということで、ドロドロの愛憎劇を期待したり心配したりしているアニメファンも多いかもしれませんが、その辺は薄目ですね。また、泣けるシーンはありますが、『あの花』のように「さぁ泣け!」という作りにはなっていません。