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【不朽の名作】熱狂ファンであればあるほど裏切られた感の強かった「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」 | リアルライブ
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【不朽の名作】熱狂ファンであればあるほど裏切られた感の強かった「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」

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パッケージ画像です。

 ようやく『新世紀エヴァンゲリオン』のHDリマスターブルーレイボックスが先月末に発売されたということで、今回は通称“旧劇場版”と呼ばれる1997年公開の『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』を紹介する。

 95年秋から翌年春まで放送されたテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』は、当時アニメファンの間に留まらない絶大なブームを呼び、その強い支持を受け、本編最終回とは別の結末を描くという触れ込みで本作は制作された。内容は良くも悪くも色々な意味でショックを与えるものだった。

 作中に散りばめられていたらしい謎の解釈については、当時からかなり多数の考察本が出ていたので、ここでは語らないとして、この作品、おそらく熱狂的なファンであればあるほど、裏切られた感の強かったストーリーなのではないだろうか。

 本作の公開前に先がけて放映した、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』という地上波放送時の総集編に新規カットを挿入した映画の最後に、本作の先行カットが流れ、これは凄い作品になりそうだという期待感でファンのハードルは青天井に上がっていた。これで、ハードルに思い切りブチ当たったり、意表をついて下をくぐったりする展開なら、ある程度ファンも納得がいくのだが、この作品はそもそもそのハードルを避けた印象があるのだ。

 まず、この作品に爽快感は皆無と言っていい。終始自分で決断できない、主人公・碇シンジを見せられ、こちらの不快感は時間を経るごとに溜まっていく。というより最後までシンジが活躍するシーンはない。ただただ周りに振り回されて、なにも決断せずに結末へという感じになってしまう。最後だから派手にやれとは言わないが、ネルフ本部が襲撃されて大変なことになっている状態でこのやりとりが続くので、もうイライラがとにかく溜まってくる。地上波放送時からさんざん観てきた結果が、この鬱屈感ではさすがにこたえる。

 唯一この作品で爽快感を感じるのは、エヴァ弐号機が戦う場面くらい。この部分の動画は、おそらくアニメ史上でもかなり印象的な演出になっているが、本当にそこくらいで、後は劇中のシンジの言葉を借りれば「もう嫌だ」と思うような展開が延々と続く。

 肝心のシンジが乗るエヴァ初号機の活躍に関しては全くないというのがまた、この作品の凄いところだ。どんなことがあっても、最後くらいは活躍するはずと淡い期待を持って観ていた人を、散々もったいぶって登場した後に見事裏切ることになる。

 さらに後半は実写を織り交ぜた演出で、地上波最終回のような精神世界の表現が続く。多少やってもいいが長過ぎるのはちょっと考えものだ。しかも、当時のファンを揶揄するような、ネットの反応や劇場の観客を映し出したシーンなどもある。真相がどうだとしても、ファンを逆なでするような要素が十分で、当時のファンからすれば、怒りすら込み上げてくる人も多かったのではないだろうか。

 「スターウォーズシリーズ」を例にあげると、エピソード4〜6の旧3部作に比べエピソード1〜3新3部作が納得いかないという内容で、『ザ・ピープルVSジョージ・ルーカス』というドキュメンタリー映画が制作されることすらあった。ファンの意見や主張は、人気作においては、強烈になることが多い。スター・ウォーズに関してはファンが、「これはおかしい」、「これは納得行かない」と疑問を抱き出したのは1999年公開の『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』からで、旧三部作の最終作とはだいぶ年月に開きがあるが、エヴァはこの流れが短期間に出た印象がある。なぜなら、地上波の25話と最終回時点で既に「これは納得行かない」という意見があったからだ。

 この後にまたファンの物議をかもす作品を制作すると、その次は「ふざけるな!」あるいは「バカにするな!」という心境に変わっていく。この心境の変化は、エヴァの数年後にブームとなりドラマ・映画で展開した「踊る大捜査線シリーズ」の『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年公開)以降のファンの怒りにも共通していることだろう。この作品でも『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』の時点で「どこかおかしい」と主張するファンが増え、2010年公開の『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!!』の展開で「ふざけるな」と思い始めたファンが多いのではないのだろうか? おそらくこの劇場版の内容で、一時期この作品から離れ、パチンコブームの後押しを受けて制作された新劇場版の公開で同シリーズに戻った人も多いはず。

 当時エヴァは「深い設定」、「世界観が良い」、「哲学的」などなど、芸術性みたいなものを押し出す特集も多かった。それでも地上波放送時は「エンタメ性」も忘れず、派手な戦闘などわかりやすい、観ていて単純に面白い演出もあった。しかし、劇場版では「エンタメ性」を捨て去ってしまったような状況になっており、ずっとついてきたファンの少なくない人数を裏切る形となってしまった。それは2009年公開のリメイク劇場版第二弾である『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の評価の高さを見れば明らかで、主人公のシンジに文句を言いつつも、なんだかんだで、エンタメとしての爽快感のある、ヒロイックな主人公を求めていた証明でもあるだろう。

 異論を承知で言うが、この旧劇場版では碇ゲンドウに注目していると面白いかと。地上波放送時では大層な事を言っていた割に、結局妻の碇ユイが忘れられなくて、再会するためにこんなとんでもない事をやらかしてしまったという、どうしようもないクソオヤジっぷりがかなりの萌ポイントになっている。最後の最後でシンジに「すまなかった」と謝罪するあたりも結構どうしようもなさが出ていて、人間って年取ってもダメなんだなという微笑ましさすらある。おそらく昭和の熱血主人公なら、本編中で息子が一発ぶん殴って解決か、親子で壮絶なバトルをするのだろうが、微妙な位置を維持して最後にこうなる辺りが、エヴァらしいのかもしれない。

(斎藤雅道=毎週金曜日に掲載)

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