「足るを知る」という言葉を聞いたことはあるでしょうか? 人生の教訓として座右の銘にしている人もおり、人気のある言葉です。
しかし、どのような意味なのかそしてどのような生き方を指すのか、よくわからない人も多いことでしょう。
この記事では、「足るを知る」の意味や由来、生き方についてご紹介します。さらに類義語や英語表現についても解説するので、チェックしておきましょう。
「足るを知る」の意味とは
「足るを知る」とは、「身分相応に満足することを知る」「足りていることを知り、それ以上は求めないようにする」という意味です。
ほかにも「足ることを知る」「知足(ちそく)」ともいわれますが、「足るを知る」と同じ意味です。
「分をわきまえる」との違い
「足るを知る」と混同されがちな言葉として、「分をわきまえる(ぶをわきまえる)」が挙げられます。「分をわきまえる」とは、自分の身の程を知り、出しゃばった行動を控えるという意味の言葉です。
一方で「足るを知る」は、「身分相応に満足することを知る」という意味で「欲張ってばかりいないで現状に満足することを覚えよう」というニュアンスで使用されます。
意味もニュアンスも異なりますので、混同しないよう注意しましょう。
「足るを知る者は富む」という老子の教えが由来
「足るを知る」は、老子の「足るを知る者は富む」という教えに由来しているといわれています。
「足るを知る者は富む」とは、「満足することを知っている人は、たとえ貧しかったとしても精神的には豊かで、幸福であるものだ」という意味の言葉です。
人間の欲求や欲望はとどまることなく、いくらでもわいてきてしまうため、今以上に求め続けるといつまでたっても幸せになることはできないと老子は考えていました。
お金やもの、承認欲求などの欲に自分の人生を振り回されたり、人と争ったりしないために、今の状態に満足することが大切であるとして「足るを知る者は富む」との考えが生まれました。
老子は、中国の春秋戦国時代に当時の中国の国の一つであった楚の思想家です。孔子が唱えた道徳や教えをまとめた儒教という学問に対し、「人為的なものである」として老子は否定的な考え方を持っていたとされています。
そこで、むやみに知や欲を働かせずに、自然に生きることを理想とする「無為自然」という道を老子は説きました。
中国における戦国時代の思想書『老子』で、無為自然や謙遜柔弱といった哲学についてまとめています。
老子が「足るを知る」のように必要以上を求めず現状に満足することの大切さを説いた根底には、無為自然といった「あるがままでいること」を重視した考えがあったためと推察されます。
老子は古くから有名な人物で、その名言を座右の銘としている人も少なくありません。
「足るを知る」はもちろん、そのほかにも老子の教えや考え方について知っておくことは、生きる上でのヒントにもなるでしょう。興味のある方はぜひ、老子についても調べてみてくださいね。
「足るを知る」の生き方とは
「足るを知る」とは具体的にはどのような生き方なのか、現代における自分の生き方にどのように「足るを知る」という考え方を生かせばいいのかについてご紹介します。
「足るを知る」では、今あるものに満足することを大切にしています。たとえば「新しい洋服が欲しい」「携帯を最新型に買い替えたい」などの物欲が出てきた際には、「足るを知る」を思い出してみましょう。
新しい洋服を買わなくても、今持っている服を上手くコーディネートすることで理想のコーディネートができるかもしれません。持っている携帯の最新機種が出ると「最新型に買い替えたい」という気持ちに駆られることもありますが、本当に必要でしょうか。今持っている携帯にも十分な機能があるのであれば、それで満足できる可能性もあります。
「あれも欲しい、これも欲しい」という欲求に駆られたときは、「足るを知る者は富む」という教えを思い出せば、本当に必要なものを自身でしっかりと選ぶことが可能です。
「足るを知る」の使い方・例文
「足るを知る」の使い方を例文でご紹介します。
- 「足るを知る」という言葉もあるし、新車に買い替えるのはやめておこう
- 彼は必要のないものは買わず、「足るを知る」という生活を実践しているようだ。
- 「足るを知る」とはいっても、もっとお金があったらと思ってしまう
- もし社長が「足るを知る」という考えを持っていたら、こんなことにはならなかったかもしれない
「足るを知る」の類義語
「足るを知る」の類義語について紹介します。「足るを知る」の類義語も覚えておけば、文脈や状況にあわせて幅広い表現をすることが可能です。ぜひ類義語も覚えておきましょう。
「富は足るを知るにあり」
「富は足るを知るにあり」は、現状に満足するということを知るのが豊かさであるという意味で、「足るを知る者は富む」と同じような意味です。
■例文
- 自分がやりたいことを仕事にできて、プライベートの時間も十分に取れるのに愚痴ばかり言っている君は、「富は足るを知るにあり」という言葉を心に留めておくべきだ
- 楽しく生活できるほど稼いでいるのにまだお金が欲しいなんて、「富は足るを知るにあり」だぞ
「足るを知るは第一の富なり」
「足るを知るは第一の富なり」は満足を知ることこそ一番の豊かさであるという意味で、「足るを知る」の類義語にあたります。
■例文
- ないものねだりばかりしているけれど、「足るを知るは第一の富なり」だよ
- 「足るを知るは第一の富なり」というように、現状の生活を楽しんでいる彼は幸せそうだ
「足るを知る」の英語表現
「足るを知る」と似たような意味を表す英語のことわざをご紹介します。
You can't have your cake and eat it.
直訳すると「ケーキは食べたら持っておくことはできない」になり、そこから転じて「両方をいいようにはできない」という意味を表します。日本語のことわざだと「二兎を追う者は一兎をも得ず」が一番近い意味かもしれません。
「一つで満足しなさい」というニュアンスでも使用されるため、「現状に満足すべきだ」という意味合いを含む「足るを知る」に似ている言葉だといえるでしょう。
He is rich that has few wants.
「ほとんど欲がない人こそが豊かなのだ」という意味の言葉です。「足るを知る者は富む」とほぼ同じ意味だといえるでしょう。
A contented mind is a perpetual feast.
直訳すると「満足は永遠のご馳走だ」という意味です。「物質的な豊かさよりも心が満たされていることこそが永遠の幸せなのだ」というニュアンスを含んでおり、まさに「足るを知る」の由来である「足るを知る者は富む」の教えと同義だと考えられます。
「足るを知る」の意味を知って今後の生き方のヒントにしよう
「足るを知る」とは、「身分相応に満足することを知る」という意味で、欲張らずに現状に満足することの大切さを意味する言葉です。類義語や英語表現もあわせて知っておけば、表現力のアップにつながります。
中国の思想家、老子の言葉が由来といわれており、古くから使われている表現で、座右の銘としている人も少なくありません。
「足るを知る」「知足」の考え方から、自分自身の生き方や悩みについてのヒントが得られるかもしれません。
「足るを知る」の意味はもちろん、その本質やどのように自分の人生に考え方を生かせるかをぜひ考えてみてください。