高山で、高山病を発するのは、良く知られている。 日本の山では、3000m当たりが、この症状が顕著に出る。 高い場所に行けば必ずなるかと問えば、そうではない。 《高度順化》 大切なのは、身体が高い場所の少ない酸素に慣れることだ。 それには、平地から一気に3000mまで行ってしまうと、 かなりの確率で、高山病の兆候が出る。 山小屋にたどり着いた時に、すでに症状が出ている場合と、 まったく元気なのに、そのあと出る場合がある。 私のこの日は、後者であった。 1700mの標高差とズルズル蟻地獄をクリアし、 やっとたどり着いた喜びと、景色の美しさに、興奮していた。 アッチで写真を撮り、ソッチで雲の動きを眺めていた。 やがて、午後5時となり、夕食の時間。 カレーライス食べ放題! たくさんの泊り客の列にならび、自分でご飯をついでいく。 その時に、おかしさを感じていた。 相当、おなかが空いているハズ。 なのに、ゴハンに魅力を感じない。 仕方ないので、缶ビールを1本のんだ。 よせばいいのに、2本目のタブもあけた。 もし、アナタが高山病になりかかっている際に、 やってはいけない事を述べておこう。 ・すぐ眠らない ・お酒を控えめにする 眠ると、呼吸が浅くなり、酸素の摂り込みが少なくなる。 高山病になりかかった時は、深呼吸を繰り返さなければならない。 その上で、水を大量に飲む必要がある。 「ビールで水分を摂っているから大丈夫」 ビールとは、水分ではない。 むしろ逆で、利尿作用があるので、 体内から水分を排出してしまう。 知識はあったのだが、到着した時の元気な自分に、 自信が湧いてしまったのがいけなかった。 つい、プシュッ、タブをあけゴクゴクやった。 いじきたなく2本目もグビグビやった。 小さな反省があったので、眠るのは我慢した。 そもそも山小屋は、異空間で、安眠できる環境ではない。 ひとの立てる音、ヘッドランプの灯り、いびき・・・ それでも身体が疲れているので、うとうとし始める。 そうすると、頭痛が始まった。 深呼吸する。 うとうとする、頭が痛い。 いったい今何時だろうか・・・・ 朝、カーテンのない窓が明るくなりはじめた。 空が白み始めている。 起き上がろうとしたら、頭がクラクラする。 やっちまった。 軽い高山病にかかってしまった。 小屋の外に出てみると、富士山がオレンジ色に包まれていた。 ご来光が、霧で拡散し、空全体が赤々と燃えている。 登山客がスマホで写真を撮りまくっている。 太陽に背をむけてシャッターを押しているので、 自分の身体が、真っ暗になっている。 「どうやったら、逆光補正できるの?」 あちこちで同じ声が聞こえる。 親切に教えている人がおり、自分の写真が撮れなくて、 嘆いている。 やがて、朝ごはんですよ~ の声に反応するのだが、食欲がない。 頭痛と吐き気がする。 風邪の症状にそっくり。 それでも、食っておかなければ、もっとひどくなる。 むりやりゴハンを腹に詰め込み、出かける準備をする。 その時、隣で寝ていた50代の男性と、話が弾んだ。 彼も、同じルートを登ってきた同志であった。 ズルズルの苦しみを耐え抜いた戦士であった。 さらには、ビールも一缶飲んでしまった同僚であった。 したがって、軽い高山病を発症した同じ病室の患者でもあった。 悪いことに、足がツル症状まで二人は同じだった。 この朝、出発時間は別々だったが、10分も登ったあたりで、 不思議に歩みが同調し、ふたりで登ろうという意識が目覚める。 やがて、最後の山小屋《赤岩八合館》の前を通り過ぎ、 あとは、急坂となる山頂までの苦しい道がつづく。 つづら折りのジグザグ道を延々登る。 さあ、そんな時だった、 《白い虹》 白い虹は、尾瀬でよく見られることで有名だ。 わざわざ尾瀬にそれを観に行く人もいる。 ただし、滅多に見られないのは、同じ。 早朝に湧いたガスに朝の光が当たると、偶然の確率でできる。 色の付いた虹は雨のあとに観られるが、 白い虹は、ガスのような粒の小さな霧状の時にできる。 ブロッケン現象によく似ている。 しかしながら、富士山の白い虹は、あまりにもクッキリしていた。 あわててスマホを取り出し、シャッターを押した。 とはいえ、現れたのは、2分ほどの間。 観られたのは、我らふたりだけだった。 山に登っている人でも、滅多に見られない現象に遭遇し、 気持ちが高ぶったのか、いつのまにか高山病を忘れていた。 身体を動かし、呼吸が激しくなったので、 酸素摂取量が高まったらしい。 ココから先は、ペースを落とす。 ジグザグの曲がり角に来たら、1分の休み。 休んでいる間に、コメカミのドックンドックンが収まる。 曲がり角に来たら、1分休み。 ん・・これって、 37年前に70才の父親を連れてきた時にやった登り方じゃないか。 って、自分がほぼその年齢になっているじゃないか。 しかして、3時間で、てっぺんにたどり着いた。 その瞬間は、ガスが湧いて景色がよくなかったものの、 平地の4分の3しかない空気の薄さを感じながら、 日本のてっぺんにいる感激を味わっていた。 さあ、ここからが大変! 登山は下りこそが勝負なのである。 「あとは下りだけだから」 山登りをしない人は、下りをなめている。 もし、山に下りがなかったら翌日の筋肉痛はないと言ってよい。 さほど人間の身体は下り用に作られていない。 つまり下りがヘタな動物である。 それが証拠に、オリンピックでも、下る競技はない。 100m下り世界記録などない。 だれもチャレンジすらしない。 危ないからだ。 ところが、今回このルートを選んだ理由が、この先待っているのだ。 これがやりたくて、ズルズルを我慢して登ってきた。 さあ、その場所まで行くゾぉ~~
by ishimaru_ken
| 2023-08-15 05:54
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