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作家の読書道:第1回 逢坂 剛さん | WEB本の雑誌

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第1回:逢坂 剛さん (おうさか・ごう)

逢坂 剛さん 写真

「WEB本の雑誌」の自称注目コーナー「作家が買った本」。今月からスタートです。「あの作家はどんな本をどこの本屋さんで買っているのか?」作家の皆さんに我々「WEB本の雑誌」の編集部員が直撃インタビュー。第一回目は『配達される女』(集英社刊)を上梓したばかりの逢坂剛さんです。早速逢坂さんが事務所がある神保町のすずらん通りへ。

(プロフィール)
1943年東京都文京区生まれ。中央大学法学部卒業。1966年(株)博報堂入社後、『暗殺者グラナダに死す』で第19回オール讀物推理小説新人賞受賞。以降、次々と作品を発表し、『カディスの赤い星』で第96回(昭和61年度下期)直木賞受賞。1997年博報堂を退社し、神田神保町に事務所を構えて執筆活動に専念。現在、日本推理作家協会常任理事。2000年4月より、 高知新聞ほかで『遠ざかる祖国』を連載中。

【本のお話、はじまりはじまり】

――凄い本の数ですねえ

逢坂 : 買った本は捨てられないんですよ。資料に使った本、例えば戦時中にヨーロッパにいた人たちの、回顧録みたいな本もたくさん買ったんだけど、一度手放すともう二度と手に入らないからねえ。外交史料とか洋書も捨てられないね。この事務所に引っ越してきて最初は余裕があったんだけど今は余裕が無くなって来て・・・・・。

専門書から小説までズラリと並ぶ本棚

――本は月にどれくらい買うんですか?

逢坂 : ん〜ばらつきがあるけど、月に2万から20万の間くらいかな。たいてい昼飯を食べたあとに、ぶらぶらと古本屋に入って本を見るね。

――昼ご飯はどこで?

逢坂 : だいたい神保町。中華料理が多いね。神保町はもともと中華料理屋が多いの。昔は蘆山と揚子江が、僕の二大中華料理店だったんだけど、蘆山は無くなってしまったからね。会社員時代は知らなかったんだけど、駿河台下の交差点の近くに漢陽楼という店があって、非常に家庭的な料理を出すんだよ。今世紀の初めに、日本へ留学していた周恩来が来たことがあるという、由緒ある中華料理店ね。最近気に入っている店かな。

――でその後、本屋さんへ

逢坂 : そう。古本屋は毎日行く。古本屋ってのは、棚が動いてないようだけど毎日行くと、ちょっとずつ棚揃えが変わってるんだ。スペインものの本とか、僕のもともと興味のある本はあらかた見つけてしまったので、今は新しい種類の本と出会うのが古本屋に行く楽しみかな。新しい自分の発見だね。

――ところで逢坂さんあの標的は何ですか?(本棚の横に謎の標的を発見)

逢坂 : ああこれはね、エアガンの標的。西部劇好きだから、モデルガンにも興味があっていくつか持ってるんだけどね。ときどきこうやって、仕事場でガンを撃ってるわけ。いいストレス解消だよ。

弾丸の後を見てみるとなかなかの腕前
これがストレス解消法

――そう言えば西部劇のポスターも飾ってありますね。

逢坂: パソコンの壁紙もガンなんだ。ほら。モデルガンを、自分でデジカメで撮影して、取り込んだんだよ

   

――毎日古本屋に足を運べる神保町に事務所を持ってるなんてうらやましいなあ。神保町は中華だけでなくカレーも美味しいからなあ。

【立ち寄る本屋】

――新刊書を買いに行かれる本屋さんは?

逢坂 : 東京堂書店には、ほとんど毎日顔を出すね。

――すずらん通りですね。

逢坂 : そうそう。事務所のすぐ近く。会社員時代から通ってるから、どこの書棚にどんな本が置かれているか分かるから、本を探しやすいんだよね。
小説の資料にする特殊な本は、専門店とか三省堂とかに行くけど、たいていの本は東京堂で見つかる。お店の中も、きゃぴきゃぴのお姉ちゃんとかいないから、落ち着いて本が探せる。

――きゃぴきゃぴのお姉ちゃんは好きじゃないんですか?

逢坂 : そりゃーキライじゃない(むしろ好き!)けど、本くらい静かに選びたいからね。それに東京堂の店員さんは、本のことよく知ってるんだ。バイトの子も本に詳しい。

――それは頼もしいですよね。平積みの本もこだわりがありますよね。

逢坂 : そうね。文芸書だけでなくて、社会学とか結構難しそうな本も積まれてるんだよ。店長のこだわりがあるんだよね。

――最近はWEB書店もいろいろオープンしてますが。

逢坂 : コンピュータはね、会社を辞めた三年前の7月1日から始めたんですよ。ほんの検索をするには、インターネットは便利だよね。コンピュータで調べて、本屋に買いに行っちゃうんだけどね。あと新刊情報とかもよく見ますよ。
それからWEBで嬉しいのは、絶版の本に関するサイトがあって、これは資料探しに重宝してるね。

なるほどなるほど逢坂さんはすずらん通りでご飯を食べてすずらん通りで本を買う。神保町は逢坂さんの書庫、東京堂は逢坂さんの本棚みたいですね。

逢坂さんの事務所もあるすずらん通り
平積み台に店長のこだわりが

【今月買った本】(2000年8月)

『写楽は北斎である』 田中英道

これは東北大学の教授で、支倉常長とかの研究本も書いている人です。僕はもともと贋作とか、フェークに興味があってね。買いました。

『フランコ スペインの現代』 色魔力夫 中公叢書

スペインがらみの本は、たいてい買うね。特にスペインの政治・文化・社会関係のものは。
で、この本はフランコを中心としたスペイン現代史なんだけど、よくまとまっていますよ。

『日本人狩り』 小坂洋右 新潮社

米ソ冷戦下、アメリカとソ連の諜報組織にスパイに仕立てられた、日本人の話。北海道新聞の記者が書いた本です。現代史モノで、埋もれていた資料を探し出して光を当てたり、新しい事実を発見したりという作品の組み立てが、好きなんですよ。

【自慢の一冊】

ん〜、一冊選ぶとするとこれかな。と逢坂さんが本棚から取り出したのはなーんとスペイン語の洋書。さすがスペイン通。

著者のサイン本なのだ

“Memorias de un Agente Secreto”という本かな。
べラスコという、スペイン人のスパイの回想録で、著者のサイン本なんだ。戦時中、スペインは中立国だったから連合国や枢軸国のスパイが、情報収集のために暗躍していたんだよ。このベラスコは、日本の在スペイン公使の須磨弥吉郎に、英米情報を提供していたんだ。彼は完全な職業スパイで、ドイツの諜報機関のためにも働いていたことが、この本で明らかにされているんだ。

(2000年8月更新)

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