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放射平衡(ホウシャヘイコウ)とは? 意味や使い方 - コトバンク

放射平衡(読み)ホウシャヘイコウ

デジタル大辞泉 「放射平衡」の意味・読み・例文・類語

ほうしゃ‐へいこう〔ハウシヤヘイカウ〕【放射平衡】

ある物体において、放射によるエネルギー流出流入とが釣り合っている状態輻射平衡
放射性元素崩壊系列で、新しく生じる核種生成速度と消滅速度とが釣り合っていること。放射能平衡

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「放射平衡」の意味・わかりやすい解説

放射平衡 (ほうしゃへいこう)

(1)外界と熱的に絶縁された空洞において,その中の物体と放射の間に熱平衡が成り立っている状態をいう(radiative equilibrium)。
熱放射
(2)物体の単位体積に外から流入する光,X線などすべての電磁波と,外へ出て行くすべての電磁波とを比較し,それぞれのエネルギーの総量が相等しいような状態,つまり出入り平衡している状態をいう(radiative equilibriumまたはradiation equilibrium)。物体の内部で原子核反応などによるエネルギーの湧出がある場合には,その湧出量を流入量に加えて平衡を考える。放射以外の熱エネルギーの移動(伝導など)が行われない場合にこの条件は特に重要で,熱的な定常状態を表す条件となる。ふつうの恒星の内部ではいたるところでこの条件が満足されており,力学的平衡の条件と相まって星の内部構造は安定し,星の放射は定常的になっているわけである。
執筆者:(3)放射性核種が連続的に崩壊(または壊変)を引き起こすとき,特別な条件下に二つの核種間に特定の量的な関係が成立する状態をいう(radioactive equilibrium)。いま核種AがBを経てCに至る崩壊過程を考える。各崩壊定数をλA,λBとすると,A,Bの原子核数NANBは,時間t=0においてAのみが存在し,その原子核数がNA0である場合,次のように与えられる。

まず,λB>λAの場合を考えると,tが十分大きいとき,に対して無視することができ,次のような関係が得られる。この式は十分時間が経過すれば,A,Bの原子核数の比NB/NAは最初のAの原子核数NA0に無関係に一定となり,見かけ上BはAの半減期で崩壊していくような現象を示す。このような状態を過渡平衡という。

 次にλB≫λAの場合には,NB/NAはλABに等しく,NBλBNAλAが成り立つのでA,Bの放射能は等しいことになり,この状態を永続平衡という。過渡平衡と永続平衡を合わせて放射平衡という。

 放射平衡において親核種から娘核種を分離し,これを放置すれば再び一定量の娘核種が生成するので,繰返し娘核種の分離を行うことができる。この方法を,牛から牛乳をしぼることとの類似からミルキングと呼ぶ。

 放射平衡は,その状態にある一方の核種の放射測定から他方の存在量を知ることができるので,しばしば分析に利用される。天然に存在する崩壊系列の中で,例えば238Uや232Thを出発核種とする場合など,放射性鉱物の中には放射平衡が成立している例がある。これを利用して鉱物や岩石の年代測定を行うことがある。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

化学辞典 第2版 「放射平衡」の解説

放射平衡
ホウシャヘイコウ
radiation equilibrium

放射能平衡ともいう.親核種Aの崩壊で生じる娘核種Bがさらに崩壊している場合に,娘核種の生成と崩壊が釣り合って定常状態になることを放射平衡にあるという.放射平衡は,親核種の半減期 τA と娘核種の半減期 τB の大きさの違いにより,過渡平衡と永続平衡に分けられる.Aの原子数を NA,Bの原子数を NB崩壊定数をそれぞれ λAλB とすれば,次式が成立する.

t = 0においてはAのみが存在し,その原子数を NA0 として二つの微分方程式を解けば,

 NANA0eλAt (3) 

となる.τAτB のとき λAλB,十分に時間が経過するときは式(4)の第2項は無視できるので,式(4)は近似的に

となる.したがって,このときのAとBの原子数の比は一定になる.また,そのときのAとBの放射能比は次式で表される.

このような状態を過渡平衡という.また,τAτB のとき λAλB,十分に時間が経過すると式(4)は次のように近似される.

このときの放射能比は,

となる.すなわち,AとBの放射能比は等しくなる.この状態を永続平衡という.ちなみに,τAτB のときには放射平衡は成立しない.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「放射平衡」の意味・わかりやすい解説

放射平衡
ほうしゃへいこう

(1) radiative equilibrium 電磁波や粒子線 (放射線) を放出し吸収する物体を壁で囲む。ただし,この壁は放射線を完全に反射するものとする。十分時間がたてば,この系は1つの熱平衡の状態になり,系の中のすべての物体の温度は同じになる。この状態では,問題とする物体の放出と吸収とが釣合い,したがって熱放射の状況も定常的になる。このような状態を放射平衡という。 (2) radiation equilibrium ある物体または空間が外部との間に放射エネルギーを交換しているとき,全体として放射エネルギーの流入量と流出量が等しい状態をいう。 (3) radioactive equilibriumある放射性核種の単位時間あたりの生成数と崩壊数とが等しい状態をいう。放射能平衡ともいう。放射性核種の生成はウラン系列,トリウム系列などの放射能崩壊系列の途中でも,また外部から入射した粒子による核反応によっても起る。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の放射平衡の言及

【熱放射】より

…これが量子力学への出発点となった。 なお,放射平衡とは,外界と熱的に絶縁された空洞(中に物体があればそれも含めて)が,中の放射と熱平衡に達した状態をいい,空洞放射もその一例である。この状態で物体は(空洞の壁も)すべて同じ温度となり,放射エネルギーを吸収しただけ放出して収支をつりあわせている。…

※「放射平衡」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」