企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むには、まずは誰かが声を上げ、最初の行動を起こさなければなりません。そして、本格的な活動を推進していくためには、何らかのチームを組成する必要があります。
DXを始動するきっかけは誰が作るべきか
前回では、DXの推進において必要となる環境整備全般について述べましたが、今回はその中で最初の課題となる初動体制について考えていきます。
DXの重要性は広く認識されてきていますが、取り組みを始めるためには、誰かが「最初のひと転がり」となる行動を起こさなければなりません。DXを始動するきっかけは誰が作るべきなのでしょうか。本来であれば、経営者が時代の潮流を読み解き、自社の将来を見据えてトップダウンでDXを先導するのが望ましいといえます。しかし、「技術のことはよく分からない」「担当者に任せている」という経営者が少なくありません。
日本国内でDXに関する講演を行った際に寄せられる質問の多くは「どうすれば経営者の意識を変えられるのでしょうか」というものです。これではデジタル時代に変革を起こすことは難しいでしょう。トップダウン型のDXを断行できる企業は多くないというのが日本企業の実態といえます。
経営者のトップダウンを待っていてはDXが始まらない、ということも考えられます。日本には、欧米と異なる日本流のDXの起こし方、進め方があるはずです。ボトム層あるいはミドル層から変革を巻き起こせるのが、日本企業の強さでしょう。DXの重要性を認識した中堅や若手の中の誰かが、DXの最初の一歩を踏み出し、賛同者や協力者を増やしながら、経営者の理解や支援を得るように働きかけていく、「ボトムアップ型」や「ミドルアップダウン型」の推進アプローチが有効な場合もあります(図1)。
例えば、IT部門長や特定の事業部門長が、自分の権限が及ぶ範囲でDXの推進担当者を指名し、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)などの自社ビジネスへの適用可能性を探るような取り組みを実施し、予算についても自部門の裁量で承認できる範囲で確保するという方法があります。また、現場スタッフが、自分の担当する業務をデジタルで変革するような小さな活動を起こし、それを徐々に他部門に拡大していくという方法も考えられます。
企業の規模や組織風土によって誰がDXの「最初のひと転がり」を起こすのかは変わってきます。しかし、大きな投資を傾けたり強力な陣容を固めたりしなくても、最初のひと転がりとなる試行的な取り組みができるのがDXの特徴でもあります。いずれにしても、DXの重要性やデジタル化の必要性を認識した誰かが声を上げ、行動を起こすことが重要です。
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