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リュウグウ (小惑星)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
リュウグウ[1](竜宮)
162173 Ryugu[2]
リュウグウの軌道
リュウグウの軌道
仮符号・別名 1999 JU3
分類 地球近傍小惑星

潜在的に危険な小惑星 (PHA)

軌道の種類 アポロ群[3]
発見
発見日 1999年5月10日
発見者 LINEAR
軌道要素と性質
元期:2007年4月10日 (JD 2,454,200.5)
軌道長半径 (a) 1.189 au
近日点距離 (q) 0.963 au
遠日点距離 (Q) 1.415 au
離心率 (e) 0.190
公転周期 (P) 1.30 年
軌道傾斜角 (i) 5.88
近日点引数 (ω) 211.32 度
昇交点黄経 (Ω) 251.70 度
平均近点角 (M) 147.27 度
物理的性質
直径 0.7 km
質量 4.5×1011 kg[4]
表面重力 0.11 - 0.15 mm/s2[4]
スペクトル分類 Cg
絶対等級 (H) 19.211
Template (ノート 解説) ■Project

リュウグウ[1](162173 Ryugu[2])は、アポロ群に分類[3]される地球近傍小惑星の一つ。宇宙航空研究開発機構 (JAXA) が実施する小惑星探査プロジェクト「はやぶさ2」の目標天体である。

発見

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1999年5月10日にリンカーン研究所の自動観測プログラムLINEARによって発見された。

物理的特徴

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地球近傍天体 (NEO) の中でも、特に地球に衝突する可能性が大きく、かつ衝突時に地球に与える影響が大きい「潜在的に危険な小惑星 (Potentially Hazardous Asteroid, PHA)」に分類されている[5]

組成

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S型小惑星イトカワよりも太陽系形成初期の有機物や含水鉱物をより多く含んでいると考えられること[6]、地球から比較的近い軌道要素を持つこと[7]などから、「はやぶさ2」の目標天体として選ばれた。炭素の含有量の多い炭素質コンドライトからなるC型小惑星である[8]。また観測結果から含水シリケイトの存在も示唆されていた[7]

はやぶさ2搭載の近赤外分光計 (NIRS3) の観測から得られた3μm波長帯のスペクトルの解析から、リュウグウの表面には含水鉱物の形で水が存在しており、加熱や衝撃を受けた炭素質隕石の組成に似ていることがわかった[9]

形成と進化

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はやぶさ2から撮影された自転するリュウグウの画像

はやぶさ2による観測結果から、破壊された母天体の破片が再集積して形成されたラブルパイル天体である可能性がきわめて高いとされている[10][11]。母天体は45.6億年前に形成されたポラナまたはオイラリアとされ[12]、14億年前にポラナ、または8億年前にオイラリアが他の天体と衝突して破壊され、その衝突破片が再集積することにより現在のリュウグウが形成されたと考えられている[13][14]

「コマ型」や「そろばんの玉型」と形容される形状は、かつて高速自転していた頃に遠心力によって形成されたものと考えられている[13][14]。現在の自転周期は7.6時間とゆっくりだが、自転周期を3.5時間とした場合に現在のような形状となることが明らかになった[13]。母天体の破片が再集積した際に既に高速自転していたか、再集積後にYORP効果によって自転速度が上がったか、2つの可能性が考えられている[13][14]

名称

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2015年10月5日、小惑星センターのリストに「Ryugu」の名称が記載されたことがJAXAから公表された[2][15]

JAXAは、「Ryugu」の選定について以下の理由を挙げている[15]

  1. 浦島太郎」の物語で、浦島太郎が玉手箱を持ち帰るということが、「はやぶさ2」が小惑星のサンプルが入ったカプセルを持ち帰ることと重なること。
  2. 小惑星1999 JU3は水を含む岩石があると期待されており、水を想起させる名称案であること。
  3. 既存の小惑星の名称に類似するものが無く、神話由来の名称案の中で多くの提案があった名称であること。
  4. 「Ryugu」は「神話由来の名称が望ましい」とする国際天文学連合の定めたルールに合致し、また、第三者商標権等の観点でも大きな懸念はないと判断したため。

「162173」が小惑星番号で、いわゆる本名に相当する。小惑星センターに正式登録されるまでの仮符号が1999 JU3であり、名称がつけられるまでの呼称として用いられた。「1999」は1999年、「J」は5月前半、「U3」は95番目に発見されたことを表す[8]

名称の公募

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名称の「リュウグウ」は、JAXAによって一般公募された案の中から選考された。2015年7月22日13時30分から8月31日10時00分まで、JAXAの特設WEBページやハガキにより応募を受け付け、選考委員会での選考で名称案「Ryugu」を選定した。これを発見者であるLINEARチームに伝え、LINEARチームがIAUに命名提案した[16]。IAUの小天体命名委員会による審査は通常3ヶ月程度掛かる[15]が、(162173) 1999 JU3については迅速な審査が行われ、「Ryugu」が正式に認められた。

地名

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2018年10月にJAXAからIAUにリュウグウ表面の地形の名称案が申請され、同年12月に「オトヒメ(岩)」「エジマ(岩)」「リュウジン(尾根)」「モモタロウクレーター」「キビダンゴクレーター」など「子どもたち向けの物語」にちなんだ13か所の命名が承認された[17][18]。JAXAは翌2019年8月22日に、「はやぶさ2」によるサンプル採取の際に形成された直径約10メートルの人工クレーターに「おむすびころりんクレーター」と愛称をつけ、その周囲の岩も故人となった助教の飯島祐一と研究員の岡本千里に因んで「イイジマ岩」「オカモト岩」と名付けられた[19][20]

なお、「おむすびころりんクレーター」は2019ユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされた[21]。推挙したのはやくみつるで、「はやぶさ2の話題は偉業としてもてはやされたんですけど、その後の言葉が定着してない。ここに入れることによって、そういう言葉もあったんだねと認知してもらう効果もあるわけです」としている[22]

地形一覧

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尾根

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リュウグウの尾根の名は、浦島太郎の登場人物に由来する。

地名 由来
リュウジン尾根 (Ryujin Dorsum) 龍神

地溝帯

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リュウグウの地溝帯の名は、神話の理想郷に由来する。

地名 由来
ホウライ地溝 (Horai Fossa) 蓬莱島
トコヨ地溝 (Tokoyo Fossa) 常世の国

岩塊

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リュウグウの岩塊の名は、大半が浦島太郎に由来する。

地名 由来
カタフォ岩塊 (Catafo Saxum) カタフォ
エジマ岩塊 (Ejima Saxum) 絵島が磯
オトヒメ岩塊 (Otohime Saxum) 乙姫

クレーター

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リュウグウのクレーターの名は、キビダンゴ以外すべて童話の登場人物に由来する。

地名 由来
ブラボー (Brabo) シルヴィウス・ブラボー
サンドリヨン (Cendrillon) サンドリヨン
キビダンゴ (Kibidango) 黍団子
キンタロウ (Kintaro) 金太郎
コロボック (Kolobok) コロボーク
モモタロウ (Momotaro) 桃太郎
ウラシマ (Urashima) 浦島太郎


日本科学未来館[23]で展示された、「はやぶさ2」の実物大モデル 2021年12月

脚注

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  1. ^ a b 運用中小惑星探査機「はやぶさ2」”. JAXA. 2019年3月12日閲覧。
  2. ^ a b c Minor Planet Names: Alphabetical List”. 小惑星センター. 2015年10月5日閲覧。
  3. ^ a b 162173 Ryugu”. JPL. 2015年10月6日閲覧。
  4. ^ a b 小惑星探査機「はやぶさ2の」運用状況” (PDF). JAXA (2018年9月5日). 2018年10月16日閲覧。
  5. ^ PHA Orbital Elements”. Near Earth Object Program. NASA. 2014年12月4日閲覧。
  6. ^ JAXA|小惑星探査機「はやぶさ2」”. JAXA (2014年12月3日). 2020年12月7日閲覧。
  7. ^ a b はやぶさ2 目的の小惑星 1999JU3”. 月探査情報ステーション. 2014年12月4日閲覧。
  8. ^ a b 井本昭 (2017年3月23日). “「はやぶさ2」が目指すC型小惑星「1999 JU3」”. 日本惑星協会. 2020年12月7日閲覧。
  9. ^ Kitazato, K. et al. (2019). “The surface composition of asteroid 162173 Ryugu from Hayabusa2 near-infrared spectroscopy”. Science: eaav7432. doi:10.1126/science.aav7432. ISSN 0036-8075. 
  10. ^ Watanabe, S. et al. (2019). “Hayabusa2 arrives at the carbonaceous asteroid 162173 Ryugu - A spinning top-shaped rubble pile”. Science: eaav8032. doi:10.1126/science.aav8032. ISSN 0036-8075. 
  11. ^ Sugita, S. et al. (2019). “The geomorphology, color, and thermal properties of Ryugu: Implications for parent-body processes”. Science: eaaw0422. doi:10.1126/science.aaw0422. ISSN 0036-8075. 
  12. ^ リュウグウの表面地形、多色画像、熱物性から探る母天体の進化”. 宇宙科学研究所. 2020年6月22日閲覧。
  13. ^ a b c d 小惑星探査機「はやぶさ2」観測成果論文のScience誌掲載について』(プレスリリース)JAXA, 東京大学, 会津大学, 名古屋大学、2019年3月20日https://www.jaxa.jp/press/2019/03/20190320a_j.html 
  14. ^ a b c 小惑星探査機「はやぶさ2」観測成果論文のScience誌掲載に伴う解説”. JAXA (2019年3月20日). 2019年3月21日閲覧。
  15. ^ a b c 小惑星探査機「はやぶさ2」の目指す小惑星1999 JU3の名称決定について』(プレスリリース)JAXA、2015年10月5日https://www.jaxa.jp/press/2015/10/20151005_ryugu_j.html2015年10月5日閲覧 
  16. ^ 小惑星探査機「はやぶさ2」が目指す小惑星1999 JU3の名称(名前)案募集について』(プレスリリース)JAXA、2015年7月22日https://www.jaxa.jp/press/2015/07/20150722_hayabusa2_j.html2015年7月22日閲覧 
  17. ^ 「はやぶさ2」着陸は2月18日ごろ、リュウグウの地名も承認”. AstroArts (2019年1月10日). 2019年3月21日閲覧。
  18. ^ 小惑星探査機「はやぶさ2」記者説明会”. JAXA (2019年1月8日). 2019年3月21日閲覧。
  19. ^ 人工クレーター「おむすびころりん」と命名 はやぶさ2”. 産経ニュース (2019年8月22日). 2019年11月16日閲覧。
  20. ^ はやぶさ2の偉業 解説 輪島・町野小 開発携わった工学博士が講演”. 中日新聞 CHUNICHI Web (2019年11月15日). 2019年11月16日閲覧。
  21. ^ 2019流行語大賞「タピる」「命を守る行動を」など30語のノミネートが決定”. FNN.jpプライムオンライン (2019年11月6日). 2019年11月16日閲覧。
  22. ^ 新語・流行語候補に「おむすびころりんクレーター」やくみつる氏が推挙”. ライブドアニュース (2019年11月9日). 2019年11月16日閲覧。
  23. ^ 「特別企画『帰還一周年 「はやぶさ2」カプセル&リュウグウの“かけら” 大公開』」、日本科学未来館、2021年12月11日閲覧

関連項目

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外部リンク

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