馬騰
馬 騰（ば とう、? - 建安17年（212年）[1]）は、中国後漢末期の武将。字は寿成。司隷扶風郡茂陵県（陝西省興平県の北東）の人。祖先は後漢初期の名将馬援。父は馬平（字は子碩）。子は馬超・馬休・馬鉄。甥は馬岱。
| 馬騰 | |
|---|---|
 清代の書物に描かれた馬騰 | |
| 後漢 衛尉 | |
| 死去 |
建安17年（212年） 鄴城 |
| 拼音 | Mă Téng |
| 字 | 寿成 |
| 主君 | 霊帝→王国→曹操 |
略歴
編集父の馬平は桓帝の時代に天水郡蘭干県の丞（副長官）を務めていたが、官位を失い、隴西郡（甘粛省南部）に留まった。馬平は家が貧しく妻がなかったため、ついに羌の娘を娶り、馬騰が生まれた[2][3][4]。家業を営んでおらず家が貧しかったため、幼い馬騰は彰山で材木を切って背負い、城市で売ることで生計を立てていた。成人した馬騰は、身長は8尺を越え容貌も雄異、性格は温厚かつ賢明であったので、多くの人が尊敬したという[5][3]。
中平元年（184年）、涼州刺史の耿鄙が佞吏を信用したため、氐や羌が反乱を起こした。さらに、北宮伯玉・李文侯・王国・韓遂・辺章といった者たちもこれに続いて反乱を起こしたため、耿鄙はこれらを鎮圧しようと郡内で勇敢な者を募集した。馬騰はこれに応じた。馬騰を見た役人たちは彼が只者ではないと見て軍従事に抜擢し、部隊を率いさせた。馬騰は期待通りに功績を挙げ、軍司馬（将軍の属官）に任じられた[6][3]。
中平4年（187年）4月、耿鄙が部下の裏切りによって殺されると、馬騰は韓遂ら反乱勢力に加わった[7]。中平5年（188年）に陳倉を包囲したが、落城には至らず、皇甫嵩の軍勢に撃破された[8]。馬騰らは王国を追放して閻忠を強制的に主としたが、閻忠が病死すると相争うようになり、反乱の勢いは減じた[9]。
初平元年（190年）、董卓の長安遷都後に出仕し、反乱異民族を退けるなど軍功を挙げて偏将軍となった。初平3年（192年）、董卓亡き後に李傕と郭汜が政権を握ると、馬騰と韓遂は李傕たちに対して恭順の意を見せ、それぞれ征東将軍・鎮西将軍に任じられた[10]。
その後、自身の兵に与える穀物を融通するよう求め、池陽県に駐屯地を移したが、要求が聞き入れられなかったために李傕らと対立し[11]、益州の劉焉と手を結び[12]、馬宇・劉範・杜稟らの協力を得て長安襲撃を計画した。韓遂は軍勢を率いて両者を和解させようとしたが、結局再び馬騰に合流することとなった。一方、李傕は郭汜・樊稠・李利を出撃させ、長平観で馬騰らと戦わせた[13]。しかし事ここに至り、馬騰らの襲撃計画が洩れてしまったため劉範が槐里に逃亡[10]。また、長平の王承らも馬騰に危害を加えられることを恐れ、馬騰が出撃し防備のなくなったところを攻撃した。馬騰は軍が壊滅して涼州まで潰走したものの、慰撫を目的として安狄将軍に命じられた[10]。
その後、涼州に戻った馬騰と韓遂は、義兄弟の契りを結び仲睦まじくしていたが、やがて互いに攻撃し合うようになった[14]。韓遂は馬騰に攻撃され敗走したが、再び軍勢を集めて反撃し、馬騰の妻子を殺した。このため和睦は困難なものとなり、戦が絶えなかったという[3]。曹操の仲介の元にこの争いは収まったが、以後両者が手を結ぶ事はなかった。二人は曹操軍の鍾繇・張既の影響下に置かれるようになった。馬騰は召し返されて槐里に駐屯し、そこで前将軍・仮節・槐里侯となった。胡族や族徒の侵入に備え、士人を厚遇して賢者を推挙し、民衆を労わった。このため三輔が安定し、人々は非常に彼を敬愛したという[3]。
袁紹と曹操が対立するようになると、鍾繇は張既を使者として馬騰の下に派遣し、袁紹軍の郭援・高幹を討伐するよう説得した。はじめ馬騰は袁尚の誘いに応じていたが、傅幹の勧めもあったため、鍾繇の下に馬超・龐徳を派遣し合流させ、郭援を撃破させた。その後も馬騰は曹操の援軍要請に応え、龐徳を従え高幹・張白騎・張琰・衛固らの討伐に参加している。
建安13年（208年）、曹操は荊州遠征の際、馬騰らが関中に割拠していることを危惧し、張既を派遣して部曲を解散した上で入朝するよう説得した。馬騰は承諾したもののすぐに入朝しなかったという。このため張既は馬騰の心変わりを恐れ、諸県に命令書を送って食糧を用意し、太守に郊外まで出迎えさせた。馬騰はやむを得ず出立し、朝廷に召されて長楽[15]衛尉となった。 また、子の馬休は奉車都尉に、馬鉄も騎都尉に任じられた。馬騰は一族を引き連れ鄴に移住した。
その後、解体された馬騰の軍が馬超によって引き継がれたが、建安16年（211年）3月、曹操側の行動に疑念を抱いた馬超は韓遂らを誘って曹操に抵抗（潼関の戦い）することを選び、7月から曹操と交戦し、9月に大敗した。馬超が降伏せず涼州に逃走したので、翌年5月に馬騰は三族皆殺しに処された[16]。馬家は衰退し、最終的には馬超と馬騰の甥馬岱などの僅かな者を残すのみとなった。
『三国志演義』での馬騰
編集小説『三国志演義』では、朝廷への忠誠に燃える正義漢として描かれている。劉備・董承らの曹操暗殺計画に参加するが、失敗に終わったため涼州に帰る。その後、許昌に呼び出された際は黄奎と共に再び曹操暗殺を謀っている。しかし、黄奎が妾に詳細を話したことがきっかけで計画が漏れ、子の馬休・馬鉄と共に一族皆殺しとなってしまう。その後、唯一脱出した馬岱から父の死を聞いた馬超は、曹操に対して反旗を翻すことになっている。
配下
編集脚注
編集- ^ 『後漢書』巻9 孝献帝紀
- ^ 飯田 2022, p. 105; 白 2013, p. 160.
- ^ a b c d e 『三国志』巻36馬超伝注引『典略』
- ^
(中国語) 『後漢書』巻72董卓伝注引『献帝伝』, ウィキソースより閲覧, "[馬]騰父平，扶風人。為天水蘭干尉，失官，遂留隴西，與羌雜居。家貧無妻，遂取羌女，生騰。"
- ^ 白 2013, p. 160.
- ^ 飯田 2022, p. 106; 白 2013, p. 160.
- ^ (中国語) 『後漢書』巻72董卓伝, ウィキソースより閲覧, "[中平]三年春，遣使者持節就長安拜張溫為太尉。三公在外，始之於溫。其冬，徵溫還京師，韓遂乃殺邊章及伯玉、文侯，擁兵十餘萬，進圍隴西。太守李相如反，與遂連和，共殺涼州刺史耿鄙。而鄙司馬扶風馬騰，亦擁兵反叛，又漢陽王國，自號「合眾將軍」，皆與韓遂合。共推王國為主，悉令領其眾，寇掠三輔。"
- ^ 白 2013, pp. 160–161.
- ^ 飯田 2022, p. 107; 白 2013, p. 161.
- ^ a b c 白 2013, p. 161.
- ^ 飯田 2022, p. 114; 白 2013, p. 161.
- ^ 三国志『益州耆旧伝』より。韓遂・馬騰は関中で争乱を起こした時、幾度も劉焉と連絡を取り合っていたという。
- ^ (中国語) 『後漢書』巻9献帝紀, ウィキソースより閲覧, "[興平元年]三月，韓遂、馬騰與郭汜、樊稠戰於長平觀，遂、騰敗績，左中郎將劉範、前益州刺史种劭戰歿。"
- ^ 白 2013, p. 162.
- ^ 『初学記』『太平御覧』が引く『漢紀（後漢紀）』より。なお『後漢紀』では「長楽」の二文字が欠落しており、注釈を加えた周天游が脱文として紹介している。
- ^ 孫盛は、馬超が父に背いたことを、家族よりも利益を優先した極端な残酷さであり、人質を取ることの無意味さを表す例として挙げている。
参考文献
編集- 飯田祥子「後漢後期・末期の西北辺境漢族社会——韓遂の生涯を手がかりに——」『漢新時代の地域統治と政権交替』汲古書院〈汲古叢書〉、2022年、89-128頁。ISBN 9784762960772。
- 白亮「東漢末年馬騰、韓遂軍事集団述論」『蘭州大学学報(社会科学版)』第6期、2013年、160-164頁、doi:10.13885/j.issn.1000-2804.2013.06.013。
- 張寅瀟「《典略》“東備白騎”釈疑」『史志学刊』第3期、2023年、33-37頁。
- de Crespigny, Rafe (2018) [1984]. Northern Frontier: The policies and strategy of the Later Han Empire. The Australian National University, Faculty of Asian Studies. hdl:1885/148890. ISBN 9780867844108.