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Link to original content: http://blog.livedoor.jp/kaneko_masaru/archives/2013-12.html
金子勝ブログ 2013年12月

kaneko_masaru

金子勝ブログ

慶應義塾大学経済学部教授金子勝のオフィシャルブログです。

2013年12月

26 12月

事故責任と「自己責任」 ――福島復興「加速」という名の福島「切り捨て」

東日本大震災と福島第一原発事故から、まもなく210カ月になります。

 

いまだに15万人もの人たちが福島県から避難したままです。

 

子どもの減少はとくに深刻です。2011年度中に約15494人の子どもが福島県から離れ、2012年度にも7757人の子どもが減り、合計23千人も減っています。少なくとも現在の状況は、福島の未来を担う子どもたちに胸を張れる状況でないことは確かです。

 

こうした状況のもとで、安倍内閣は、20131220日に福島復興を「加速」させるとして、新指針を出し、閣議決定しました。全体的にその内容を要約すると、
 

●東電に1兆円の公的資金を返済しないでよいとし、原子力損害賠償支援機構からの交付金枠を5兆円から9兆円に増額した。ちなみに、福島第1原発の廃炉費用は、経産省令で電気料金に乗せてよいとする措置がとられている。

●5兆円と見積もられていた東京電力の除染費用を2.5兆円に削減する。そのために汚染土などを処理せずに埋め込む「中間貯蔵施設」方式がとられる。その建設費・管理費は1.1兆円とされる。

●長期的な除染目標は1mSv以下とされたが、具体的な期限はなく工程表も示されなかった。追加的除染の費用の見積もりもない。つまり除染を行わない方針ととれる。

●全員帰還の方針を転換し、移転先に住居などを建てたら補償する。だが、その賠償費用については、詳細な提示はなかった。一方、帰還をしたら「早期帰還賠償」90万円を支払うが、1年で補償を打ち切る。しかも帰還後は、各人が、個人線量計を使って被曝量を1mSv以下に管理する。

 
 

無責任の極み

 

絶対に忘れてはならないことがあります。

 

200612月に、安倍首相は「全電源喪失は起こらない」と国会答弁しました。ある意味で、福島第一原発事故の原因を作った責任者の一人です。ですが、安倍首相から自らの責任に関して反省の弁を聞いたことがありません。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b165256.htm

 

それどころか、五輪招致のために、「汚染水は完全にコントロールされている」という発言を繰り返し、その発言を改めないまま「国が前面に出る」として、ずるずると東京電力の救済措置をとっています。

 

当の東京電力も、福島第一原発事故について、経営者も株主も貸し手も責任を問われていません。にもかかわらず、1兆円の公的資金を返済しないでよいとし、2兆円以上とされる原発の事故処理・汚染水対策を含む廃炉費用を、経産省令ひとつで電気料金に乗せられることにしてしまいました。

 

さらに、東京電力は社債を含めて8兆円弱もの借り入れがあるのに、生かさず殺さずの状態で東京電力を生き残らせて、9兆円もの交付金を返済できる見込みがたつのでしょうか。これらは全て国民の税金か電気料金から出されます。

 

ツケの先送りはかえって国民負担を増大させるだけです。

 


本当に「中間」施設なのか

 

重要なのは、福島の放射能汚染は戦後最大の環境問題であるということです。

 

ところが、政府は、東京電力を生き残らせるために、このような安上がり方式の除染をとろうとしてします。

これを福島の復興を加速させると言ってよいのでしょうか。

むしろ福島の復興を遠のかせてしまうのではないでしょうか。

 

現在、福島県内では、汚染物質が1万数千カ所で野積みになっています。それゆえ、福島県の住民が、政府がいう「中間貯蔵施設」にそれを持って行って、目の前から汚染土がなくなって欲しいと考えるのは自然です。放射線管理が杜撰だとなおさらです。

 

しかし、子どもたちが生きる将来を考えてみましょう。

 

政府は、30年後に他の地域に最終処分場を作ってもっていくので、これは「中間」貯蔵施設だと言います。しかし、「最終貯蔵施設」になる可能性が極めて高いと考えられます。実際、これまでも放射能汚染の疑いがあるという理由から東日本大震災の被災地域のガレキは受け入れられなかったのです。こんなに大量の汚染土を、どこの誰が引き受けるのでしょうか。

 

さらに、政府は使用済み核燃料の最終処分場を作るといってきましたが、何十年たっても受け入れ地域は出てきていません。政府は「これは中間施設だ」という空約束をずっと繰り返してきたのです。

 

最終処分場になる可能性が高いとすれば、頭の中で、東京ドーム20個分にもなる2000万トンもの汚染土を積み上げたボタ山を想像してみましょう。巨大な最終処分場を福島に築けば、それが永遠に汚染のシンボルになってしまうでしょう。「風評被害」も終わらなくなります。

 

もしボタ山を避けるために、土中に2000万トンもの汚染土を埋めることにしたら、どうでしょうか。埋め立てる余地が小さくなり、費用がかかるとなれば、これ以上、表土をはがすな、除染はするな、という圧力がますます高まっていくでしょう。とくに8000ベクレル以上の汚染土はそうなります。

 

より問題なのは、何ら処理をしていないまま埋め立てられる膨大な量の汚染土や灰は、地下水や集中豪雨で漏れ出す危険性がさらに高まることです。汚染が広がり、半永久的に汚染地域になってしまいます。

 

にもかかわらず、この中間貯蔵施設は、民間企業による環境アセスメントをしないと環境省は明言しています。

 

実際の運用は、PCB処理のため事業会社法で作られた「日本環境安全事業」が行います。これでは集中豪雨などで流出する危険性が大きく、一度起こったら汚染水問題の二の舞になりかねません。最初に抜本的対策を打たないと、事態は収拾できなくなるのです。

 


セシウム回収型焼却炉という技術的選択肢

 

日本は、水俣、富山、四日市、阿賀野川と深刻な公害被害を繰り返してきました。その経験から言えることは、環境汚染を取り除くには、汚染物質の濃縮処理と隔離が必要だということです。福島も、放射性物質の濃縮、隔離が重要になります。

 

セシウム回収型焼却炉という技術があります。

 

すでに郡山で実証実験済みであり、飯舘村でも実証実験が始まっています。

 

この機械の利点は、汚染された土や草木を1000度以上で焼き、セシウムは気化した後、低温化して分離・濃縮し、もとの土からセシウムが除けます。そして土をリサイクルできます。

 

分離されたセシウムは、防水を徹底した3層防護の保管施設で長期保管し、減衰を待ちます。

 

この技術は、ダムやため池などの底の汚染土壌の処理にも必須です。

 

セシウム回収型焼却炉を森林バイオマス発電につければ、再生可能エネルギーを生み出すとともに除染費用も節約できます。もちろん、作業員が被曝しないように、全自動の機械で伐採・運搬します。

 

このようにして環境汚染からの回復を進めることが福島の復興に必須になります。

 

除染の技術は存在しています。しかし、政府・環境省も東電も費用がかかるからと、安上がり方式をとろうとしているのです。

 

環境省は公害裁判を契機にできましたが、福島の環境回復の責任を放棄し、「4大公害以前の日本を取り戻そう」としていると言われても仕方ないでしょう。

 


政府・東電の無責任を許してはいけない

 

いま何が一番大事なことなのでしょうか。

当事者主権の立場です。

それは、原発事故の被害にあった福島県を中心とする人々の立場に立つことです。

 

帰還か移転かを当事者が決められるようにするには、福島の環境回復が前提となります。環境を回復させない限り、帰還しようとしまいと被災者の苦しみは続くことになるからです。

 

ところが、政府は、除染を止めて、賠償金を上積みすることで早く帰還するように促しています。しかも、被災者は地元に帰還したら、1年後に賠償は打ち切られ、被曝線量を個人線量計で管理することになります。

 

政府は、事故を起こして誰も責任を取らない東京電力をゾンビ状態で生き残らせる一方で、被災者の福島県民の「自己責任」にしようとしているのです。あまりに理不尽ではないでしょうか。

 

これで、どうして「復興を加速させる」と言えるのでしょうか。「琉球処分」にならっていえば、これは「福島処分」なのです。

 

東京電力の破綻処理が先決です。

18 12月

無責任と逐次投入の果てに(2) ――エネルギー基本計画の問題点は何か

「エネルギー基本計画」のひどい内容

秘密保護法が国会で採決された日に、どさくさ紛れに、経済産業省の「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」で「エネルギー基本計画」の素案が提示されました。当然、その内容のひどさにもかかわらず、新聞記事は小さくなってしまいました。

 

主な内容を見ると、以下の通りです。

 

●原発の依存度を可能な限り低くするとしながらも、電力の安定供給、コスト低減、温暖化対策の観点から、安全性の確保を前提に原発を「重要なベース電源」として位置づけた。民主党政権下の「2030年代に原発ゼロとする」という方針が根本的に覆されてしまった。

●いま全国で7つの原発の14基が、原子力規制委員会の安全審査を受けているが、原発の再稼働に前向きな姿勢を明確にした。

●民主党政権下で「原発の新設・増設は行わない」とされたが、今回は原発の新設や増設については直接言及せずに「必要とされる規模を確保する」とし、新設や増設に含みをもたせた。

全体の電力供給に占める電源別の構成比率について、現時点で原発の再稼働が見通せないという理由をあげて示さなかった。それは、ずるずる方式をとることを意味する。

●使用済み核燃料について、「国が前面に立って最終処分に向けた取り組みを進める」とし、最終処分場の候補地を自治体からの公募に頼るこれまでの方法を改め、処分場に適した地域を示すなど国が主導して問題に取り組む姿勢を明確にした。だが、具体策は何も示さなかった。

●ただし太陽光や風力といった再生可能エネルギーについては、今後3年程度、導入を最大限加速していくとした。だが、3年以後については書かれていない。

 

今回の「エネルギー基本計画」が何より問題なのは、民意を反映させるプロセスを全く欠いていることです。

 

昨年9月に民主党政権下において決めた「2030年代に原発ゼロ」とするエネルギー政策は、討議参加型世論調査と銘打って各地において公募の参加者の意見表明がなされました。また当時、9万を超えるパブリックコメントが寄せられ、原発ゼロが圧倒的でした。

 

こうした討論参加型世論調査と比べてみると、今回は総合資源エネルギー調査会基本政策分科会において脱原発を主張する委員を降ろし、原発推進の立場に立つ委員に差し替えたうえで、官僚主導の業界利益のための審議会政治へ逆戻りさせたもので、民意を完全に無視したものです。まるで福島原発事故などなかったかのようです。

 

嘘で塗り固めた非現実的な「計画」

使用済み核燃料の最終処分場は見通しが立たないという根本的問題を別にしても、原発を「重要なベース電源」と位置づける根拠がきわめて薄弱です。

 

まず電力不足と安定供給を理由にあげていますが、大飯原発を再稼動させる前にも、計画停電が必要だとして電力が不足するという嘘キャンペーンを展開しました。

 

 昨年夏を見ると、最大電力需要があった83日の14時台で2682kWでしたが、想定した最大電力需要2987kW300kW以上も下回りました。2010年夏の最大電力需要である3095kWと比べると400kW以上も少なかったのです。節電効果を過少に見積もったため、余剰電力が1割ほど発生したのです。

 

今夏も猛暑でしたが、さすがに嘘キャンペーンは鳴りをひそめました。むしろ省エネ=スマート化をひとつの産業戦略にしていく発想こそが求められています。電力不足は原発再稼動の理由になりません。

 

そこで次に出てきたのが、燃料費増加キャンペーンです。

 

経産省は、原発停止による火力発電への代替により、2012年度に燃料費が3.1兆円増えたとする数字を1人歩きさせています。しかし、河野太郎議員によれば、ここでも計算のゴマカシをしています。

http://www.taro.org/2013/11/post-1420.php

 

経産省は、2010年度の過去3年間の原発の平均電力量である2748億kWh から、泊3号機と大飯3、4号機の発電電力量156億kWh(2012年度)を差し引いた2592億kWhを全て火力発電で代替したと仮定して計算しています。

 

しかし実際には、節電や省エネが進んだこともあって、火力発電の焚き増しは1827億kWh に過ぎませんでした。つまり、766億kWhも過大な数字で計算しているのです。しかも、その火力発電の内訳をみると、燃料単価が高い石油火力を1206億kWhも発電するとして見積もっています。また、LNGの価格は、40年も前にカタールと結んだ契約に基づいて原油価格の上昇に連動させた価格で計算しており、ガスの調達先を分散すれば、かなりの節約が可能なのです。

 

環境エネルギー政策研究所や自然エネルギー財団の試算によれば、燃料費コストの増加分は3.1兆円の半分の1.5兆円程度です。ここでも経産省は、原発を再稼働させたいために燃料費増加を過大に見積もっています。

http://www.isep.or.jp/library/5224

http://jref.or.jp/images/pdf/20130918/JREFenergyproject_2013.pdf 

 

 

「原発は安い」は本当なのか

経産省は、原発のコストについても、201112月にコスト等検証委員会が出した8.9/kWh で、石炭火力の9.4/kWh LNGガスの10.7/kWhより安い数値を使っています。これはモデルプラントを使って50基全部が動くことを前提にシミュレーションで試算したもので、いまや非現実的なものです。

 

まず原発は追加安全投資で約2兆円ほどかかりますが、これもかなり過少な数字です。欧州の原発には、メルトダウンしても受け止めて冷却設備に流し込むコアキャッチャーを装備するようになってきています。安倍首相は、「世界一の安全基準にする」と言っていますが、コアキャッチャーは原子力規制委員会の新安全基準には含まれていません。コアキャッチャーなどを標準装備すれば、さらに多額の費用がかかります。

 

賠償・除染費用は少なくとも10兆円になります。

 

ところが、政府は、汚染土をフレコンパックに詰め込み野積みにする中間貯蔵施設方式をとり、東電も認めていた5兆円かかる除染費用を2.5兆円に削ろうとしています。その背後には、東電を救済する政府と、自らの予算を削られまいとする日本原子力開発機構が、東京ドーム20個分以上と言われる巨大な汚染土の山を築く方式を推進し、これ以上、土を剥がすなとしています。

 

その日本原子力開発機構出身の田中俊一原子力規制委員長は、20mSvでいいと言い、賠償打ち切りを主張してきました。

 

そして環境省は、東電・ゼネコンと一体化して、100分の1に減容できるセシウム回収型焼却炉付き森林バイオマス方式を拒否しています。東電救済のために、必要な費用を出さずに失敗してきた事故対策を全く反省していません。

 

こうして見てくると、安全投資、賠償・除染費用は少なくとも12兆円以上はかかります。燃料費の1.5兆円とは比べものにならないくらい大きい数字です。それらが原発の発電単価を押し上げています。

 

さらに、政府も原発依存を出来るだけ下げるとしていますが、原発は40年で減価償却し、廃炉の引当金を積むことになっているので、もし途中で廃炉にすると、原子力発電施設と核燃料の残存簿価、廃炉引当金の不足が生じ、特別損失として計上しなければなりません。現時点で原発50基をすべて廃炉にすると、少なくとも4.4兆円はかかることになりますが、これには原発サイトの共用施設分が含まれていませんので、過小評価の可能性があります。ともあれ実際に、50基を廃炉にすると、いくつかの電力会社が経営破綻する恐れが出てきます。

 

それゆえ、電力会社は安全軽視で原発を再稼働させたくなるのです。

 

問題は、再稼働する原発が少なければ少ないほど、原発の発電単価は上昇することになることです。廃炉にする原発の廃炉引当金不足額が生じ、しかも稼働する原発の数が少ないほど、分母が小さくなり、原発のコストは高くなるからです。今回のエネルギー計画は、電源構成の具体的数値をあげずに、そのことを隠そうとしています。

 

私は、拙著『原発は火力より高い』(岩波ブックレット)において、50基中28基を廃炉にして、2兆円の安全投資、10兆円の賠償・除染費用、28基分の廃炉費用を乗せて、政府のシミュレーション方式を使って試算したところ、原発の発電単価は1735/kWhになりました。火力のおよそ2倍です。もはや原発の経済性は全くないと言ってよいでしょう。

 

問題はこの廃炉費用を経済産業省の省令だけで電気料金に乗せられるようにしたことです。それによって、料金負担は新電力と契約できない家庭(国民)や自家発電を持たない中小企業にかかってきます。原発は不良債権そのものであり、その抜本的処理が必要なのです。

 

そのためには、以下の手続きが必要です。

    まず電力会社に原子力発電施設と核燃料の残存簿価、廃炉引当金の不足額に当たる株式を発行させ、それを政府が買い取ります。

    そのうえで、電力会社を発電会社と送配電会社に分離し、原発を電力会社から切り離して、すでに事実上破綻している日本原子力発電に集めることが大事です。日本原電は基本的に廃炉専門会社になります。もし少数の原発を動かすことになったとしても、少なくとも電力会社の経営事情に左右されずに、高い安全基準を設定して時間をかけて原発の安全性を見ることができます。

    一方、原発=不良債権を切り離すことで電力会社の経営は健全になり、電力会社に多く貸付けている銀行はこれで不良債権を処理することができます。

    国が買い取った電力会社の株は、原発を切り離して健全化した電力会社が買い戻してもいいし、一般に売却してもいい。少なくとも国民や中小企業が負担を負うことなく原発を処理することができるようになります。

 

経産官僚や古い産業構造を代表する経団連の一部リーダーの無責任体制を守るために、コストが異常に高い原発を再稼働して、産業構造の転換に遅れれば、「失われた30年」になってしまいます。

 

原発=不良債権の処理を急がないといけません。

 

*参照:拙著『原発は火力より高い』(岩波ブックレット)

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